text sample〜シズイザ

□ハピネス☆☆☆
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翌日。
俺は酷い熱に魘された。
もしかしたら、昨日シズちゃんの前で赤面していたのも熱のせいだったのかもしれない。
そんな都合の良い事を考えながら夏用の布団に頭まですっぽり被ると、自分の放射した熱が籠りじんわりと額に汗が滲んだ。
こんな状態じゃ仕事も手に就かないと、優秀な秘書に電話をしたら、あっさりと今日は休むと言われた。
看病してくれるかもなんて淡い期待は抱くもんじゃない。
これは本格的に熱が上がりそうだと、薬を求めてベッドから足を下ろすと、地面がぐにゃりと沈んだ感覚に陥り、自分の足に力が入っていない事に気づく。
これじゃあ水も取りに行けない。
一度諦めてベッドに戻ると、回らない頭で熱の原因を探ってみた。
夏風邪だろうか。
その割には熱以外に症状はない。
じゃあ、何か悪い物にでも感染したのだろうか。
それも心当たりがない。
じゃあ一体、何?
昨日、彼の事を考え過ぎて熱が出たのかもしれない。
もしそれが原因だったら、これは本格的にヤバい病、恋の病というやつに侵されてしまったのかもしれない。
それも、末期の。

一向に下がる気配を見せない手強い熱と戦いながらも、このままでは脱水症を起こして死に兼ねないと思った俺は、二足歩行を諦めて四つん這いになって床へと降り立つと、先程のぐにゃりとした床の感覚はなく、何とか冷蔵庫まで辿り着く事が出来た。
買い置きしてあるミネラルウォーターで一気に喉を潤すと、少し頭がすっきりしたような気がした。
ここまで来れたものの、ベッドへ戻るのはこれまた大変だと思いながらも、冷たくて心地いい床にお別れをして寝室へと足を運ぼうとした瞬間、軽快な音でインターホンが鳴った。

「誰だよ、こんな時に」

何とか踏ん張りモニターを覗く。
そこには見慣れた黒縁眼鏡に白衣の男。
あぁ、新羅が神様に見えるよ。

「はい…」
「あ、臨也?大丈夫?」

なぜ、この男はそんな質問を投げかけてくるのだろうか。
まるで、今の俺の状況を把握しているみたいじゃないか。

「臨也ー。開けてくれないかな」
「どう、ぞ」

オートロックを解除し、玄関先で解錠した状態で待っていると、再度インターホンが鳴り新羅が顔を出した。

「うわぁ、酷いね」
「酷い顔してて悪かったね」
「違う違う。熱あるんだろ?薬持ってきた」
「何で…?」

自分の問いかけに新羅は気持ち悪い笑みを浮かべると、後ろからもう一人、長身の男が姿を現した。

「シズちゃ…ん?」

驚いた表情を見せた俺に、彼は帰ると言って踵を返す。
状況が掴めずろくに頭も回らない俺の口は、何故か、らしくない素直さを発揮していた。

「待って!」
「あ?」
「上がっていってよ」

何でこんな事が言えたのかはわからない。
顔を合わせれば喧嘩ばかりの男に部屋に上がっていけなんて、自殺願望でもあったのかな。
ううん、これは全て熱のせいだし、病人にシズちゃんが喧嘩を吹っ掛けるとは思わなかったから。
らしくない二人の関係をじっと眺めていた新羅は、さっさと靴を脱いで上がり込むと、医者モードへと切り替わっていた。

「歩けるかい?無理なら静雄に運んでもらおうか?」
「寝室に行くぐらい、大丈夫だって」

よく言ったもんだ。
さっきまで二足歩行も出来なかったというのに。
それでも強がってみせたのは、シズちゃんに運んでもらうとか以ての外だったからだ。
それって、負んぶとか、お姫様抱っこって事だろ?
無理無理!
そんなの、彼と密着したら更に熱が上昇して、命に係わる。
それだけは、断然阻止!
ふらふらと何とか足を運びながら寝室へ向かう。
それを見て新羅が彼に、運んだ方が良くない?とか、肩貸した方がいいんじゃない?なんて言うから、そうさせないために俺は最大の強がりを見せながら少し早めに歩いた。
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