text sample〜シズイザ

□Honey
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P9〜

臨也は静雄が休む部屋の前に立つと、ノックをせず部屋へと入る。
そこには眉間に皺を寄せ魘される静雄が眠っていた。

「はは、ホント可愛いとは程遠い寝顔だ」
 
臨也は布団の傍に近寄り座り込むと、じっと静雄の顔を見つめた。

「シズちゃん、結婚するってホント?」
 
臨也は返事がない事を承知で話を続ける。

「何で?納得いかないなぁ。バケモノは結婚なんて出来るわけないじゃん。きっと奥さんになる人もシズちゃんの怪力について行けずに家を出ていくに決まってる。どんな人と結婚するのか知らないけどさ、理解してくれるわけ?シズちゃんの事一番知ってるのは俺だけで…良いんだよ」
 
言い出したらどんどん言葉が溢れ出し、気がつけば涙が滲んでいた。

「結婚するなんて…認めない」
 
自分の感情をぶつける様に言い切ったところで臨也は手に温もりを感じた。

「臨也…」
 
静雄が薄っすらと目を開け臨也の手を握っていた。
眠っていると思っていた目の前の男が起きていて、しかも今話していた事を全て聞かれてしまったのではないかと焦り、臨也は慌てて携帯していたナイフで静雄の掌を切りつけた。

「…っ!ってーな!」
 
静雄にとってナイフで傷を負うなんて事は所詮掠り傷程度に過ぎないが、まさかいきなり切りつけられるとは思ってもみなかった。
そんな静雄に臨也は聞かれていたという事を前提に話を進めた。

「本気なの?」
「なんの事だ?」
「惚けるなんて性格悪すぎ」
 
静雄には質問の意味がわからず聞き返したものの、臨也はその事に答えもせず、ただ一方的に怒っていた。

「シズちゃんなんて、さっさと死ねば良かったんだよ!」
 
そう大きな声で静雄に向かって酷い言葉を投げつけて臨也は部屋を出た。

「ノミ虫、てめーっ!」
 
さっぱり訳がわからず、臨也を捕まえて問いただそうと思ったものの、二日酔いの静雄は頭痛で動けない。
突然怒った様子で部屋から飛び出してきた臨也を新羅が呼び止めた。
しかし、そんなのは完全無視して臨也はマンションを飛び出した。
はぁ、と大きなため息を吐いた臨也の頬を白い粉雪が滑る。

「…雪?」

ゆっくり空を見上げたらまっ白な雪がふわふわと舞っていて、余計に悲しくなった。

「シズちゃんが誰かのものになるなんて…はぁ、死にたい」
 
絶望の淵に立たされた気分で臨也は事務所兼自宅までの道程をフラフラと歩いた。
駅へと向かう途中、静雄の上司である田中トムに出くわし、よぉ!と声をかけられたが、元気がない臨也は静雄の情報を根掘り葉掘り聞き出そうともせず、頭をペコリと下げて別れた。
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