text sample〜シズイザ

□偽りの恋☆☆☆
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P11〜

道行く人より一段高くなれる縁石の上を、鼻歌を歌いながら白いコートを身に纏った臨也は歩いていた。
全身白でコーディネートし、耳には蛍光ピンクが目立つヘッドホンをしたスタイルで、臨也はすれ違う人々の目を引いていた。

「ねぇ、お兄さん。一緒に遊びませんかぁ?」
「え?俺?」

突然肩をポンッと叩かれて声をかけられる。
音楽は流していなかったものの、ヘッドホンをしている所為で少し聴覚が鈍っていた臨也は、何を言われたのかよく分からなかったが、肩を叩かれたので、自分に何か用があるのだろうと振り向いた。

「何か用?」

そこには茶髪の如何にも遊んでます、な男二人がニヤニヤと薄気味悪い笑いをしながら立っていた。

「遊びませんかぁ?」
「あぁ、俺忙しいんだよね」

男相手にナンパかよ、と心の中で毒づいたが、今は折原臨也ではないと自分に言い聞かせここは逃げるに限ると頭を働かせた。
が…

「あ、今お兄さん逃げようと思ったでしょ。そんな可愛い格好で忙しいとは思えないんだけど。どっか行こうよ」

可愛い格好の奴は忙しくないのかよっ!とツッコミをいれたい所だが、ややこしくなるのはごめんだとそこはグッと堪えた。
ガシッと腕を掴まれて逃げ場がなくなった臨也は、仕方がないと空いた方の手でコートのポケットに入れてあるナイフを取り出そうとしたが…黒コートのポケットから入れ替えるのを忘れた事に気付き、どう回避するか違う手段を考える。
しかし、しつこいナンパ男達は両脇に回ってきて、ついに臨也は両腕を拘束された。

「ちょっと、マジ勘弁。忙しいって言ってるじゃん。離せって」

完全に逃げ場を失った臨也は、何故か心の中で静雄に助けを求める。
今頃取り立てに回っているであろう男を思い浮かべ、こんな格好するんじゃなかったと少し後悔した。

「シズ…ちゃ……」


少女マンガのようだった。
ピンチの時に助けてくれるヒーローが目の前に現れるなんて誰が思っただろう。
聞きなれた程よい低さの声が後ろから聞こえて、振り向いた時には両脇に居たナンパ男達が床に転がっていた。

「大丈夫か?」
「は、はい」

金髪長身のバーテン服。
こんな所で会うなんて。
というか…助けられるなんて。
運命なんじゃないだろうかと、臨也はらしくない考えを頭に浮かべた。

「あ…ありがとうございます」
「おう。怪我ねーか?」

この態度。
目の前の、間違いなく犬猿の仲である平和島静雄が自分を心配している。
やはり静雄は気付いていないのだろうか。彼の視線が気になって見上げると、咄嗟に目を逸らされた。

「あー、わりぃ。俺の知ってる奴に似ててよ」
「そうですか」

マズイ。
別人を演じているからなのか、静雄を目の前にして普通に会話をしているからなのか、臨也は緊張していた。
これでは口達者な情報屋が台無しだ。
結局次の言葉が浮かばず黙りこくっていると、静雄は胸ポケットからタバコを取り出して火を点け「じゃあな」と一言告げて背を向けた。
その瞬間、折角のチャンスを逃すものかと臨也は静雄のベストの裾をギュッと掴んだ。
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