text〜藤メフィ

□Medizin der Liebe ☆☆☆
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「あら、いらっしゃい。今日は随分変わったものを買うんだねぇ」
「まぁ、ちょっと特殊な薬を調合したくってよ」
「研究熱心なのも良いけど、たまにはハメ外して遊んだらどうだい?あんたまだ三十歳だろ?」

そういうここの女将なんて俺より若いのに、随分な貫禄だ。
若くしてこの用品店に嫁ぎ、今や看板娘として祓魔師の中では有名だ。
そんな彼女は、レアな薬草でも揃えてくれているから、ホント頭が上がらない。

「まぁ、任務でのやんちゃっぷりはよく耳にするけど、あんた、遊びに行ったりしないだろ?」
「良いんだよ、俺は」

遊びたけりゃとっくに遊び回ってる。
神父とか講師というポジションがあったとしても、時間がない訳じゃない。
ただ俺には、自分の時間を割いてでも会いたい奴が居て、そいつは俺よりも多忙で図体のデカイ悪魔だけど、奴は奴なりに俺のために時間を作ってくれる、まぁ所謂恋人関係な訳だ。
だから、遊び回る必要も暇もない。

「また来るわ」
「変な薬作るんじゃないよ」
「へいへい」

用品店を後に正十字学園町を見下ろすと、二週間ぐらい前になるだろうか…
メフィストと肌を重ねた時の事を思い出した。
ずっと感じていた違和感。
それは俺の最大の悩みへと変化した。
ベッドの上で俺を見上げるその男は身長百九十五センチ。
決して俺が低い訳ではなく、そいつが完全に規格外。身長差十八センチもあると、流石にいろいろ不便が出てくるって訳だ。
これが逆の立場ならそんな悩みが出る事もなかったんだろーけと、今更立場を変更するわけにもいかず、それに…
俺がメフィストに…?
有り得ない。
うん、ないない!
一度で良いから、俺よりも小さなメフィストを抱きたい。
そんな俺の願望が、今に至る。
正十字学園町から視線を正面に向けると、前から派手な傘を差した男が視界に入る。

「雨なんか降ってねーだろ」
「日傘ですよ。紫外線には気を付けた方がいいですよ」

日傘とやらをクルクルと回す度に、アイスを模った柄の部分もクルクル回る。
あぁ、アイス食いてーな。

「薬の調達ですか?」
「あぁ。お前こそ、用品店に用はねーだろ?何でこんな所歩いてんだよ」
「それはですね…」

メフィストは鋭く尖った犬歯をチラリと見せ笑うと

「貴方の姿が見えたから、この暑い中態々足を運んだのです。感謝してください」

と、最後の言葉さえなければ大層可愛げがあったのに。
と、思わせる言葉を俺に言った。
まぁ、そこがメフィストなんだよな。
俺は目の前の愛しい悪魔の手を掴むと、ぐいぐいと引いて歩き始めた。

「藤本…?」
「アイス食いに行こうぜ」
「はぁ?私はアイスよりもかき氷が食べたいです」

ぶつぶつ言いながらも後ろから着いてくるメフィストはご機嫌のままだ。

「お前がそんな傘持ってるからだ。責任取れ!」
「意味がわかりません。それから、かき氷は譲れませんからね」

こういう意地っ張りな所が可愛くて仕方がないなんて思う俺はだいぶこの悪魔に毒されている。

「じゃあ、かき氷の上にアイス乗せてもらおうぜ」
「貴方、どれだけ欲張りなんですか!」
「知らなかったのか?俺は欲張りでどうしようもねー男なんだよ。だから、お前が欲しくて欲しくて仕方ねーんだわ」
「…!」

黙り込んだメフィストが今どんな顔してるかなんて、見なくても想像がつく。
握り返された手が更にギュッと力を込め、それだけでもう、出来る事なら今すぐ抱き締めたい、とか思っちまう。

「かき氷はやっぱいちごだよな」
「はぁ?宇治金時に決まっています」
「そうかそうか、ハハハハ」

メフィストすまん。
自分の欲張りのせいで、お前に薬を飲まそうとしているどうしようもない男をどうか許してくれ。 
少し後ろを歩く恋人に謝罪しながら、俺は南十字通りへと足を向けた。
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