text〜古キョン

□空色【完結】
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水色の絵の具をパレットいっぱいに絞り出す。
沢山の仕切りの中で、一区画だけ水色に染まって今にも溢れ出しそうだ。
もう一本絵の具を手に取って、同じように絞り出す。
今度は白。
じわじわと広がる様子を眺めながら、白は変わり映えしないな…なんて感想を述べてみる。
真っ白な画用紙に水で溶いた水色を広げてみたら、今日の空と同じ色で、あの日と同じ空の色だった。

「あ…」

声が出た時にはもう既に遅かった。
塗り立ての水色の上にポタッと雫が零れ落ちる。
一度落ち始めたら、そこからは止まらずポタポタと雫が水色に模様を作り、これ以上零れないように上を向いたら、悲しくなるほど雲一つない空が広がっていた。

「古泉…」

泣かないって決めてたのに、あいつと出会ってから俺の涙腺はどうにかなってしまったらしい。
残酷だ、全く。

*  *  *

幸せだった。
当たり前のように部室に集まって、当たり前のようにゲームを始める。
次の一手を悩む姿を盗み見ると、必ずそんな俺に気付いてニッコリと笑う。
だからお前は負けるんだよって言ったら、あなたには敵わないって言って、笑う。
そんな何気ないやり取りが大好きだった。

「お別れを言いに来ました」

たった一言。
それだけで、俺達の恋は終わる。
元々障害の多い俺達に終わりなんて容易いものだった。
だが、理由もなく一言で終わらすなんて、酷くないか?
何か言ってやりたくても言葉が出ない。
涙を見せたくなくて、唇を噛み締めるのに必死だったから。

「ごめんなさい」

お前はその言葉をよく使う。
そんなの要らない。
聞きたくない。

「泣かないで」

泣いてねーよ、なんて強がってみても泣いてんだよな、俺。
頬を伝う涙を拭う古泉の手を大きな音を立てて払い除ける。
優しくするな、って声を振り絞って空を見上げたら、雲一つない空が広がっていて、隣には泣きそうな顔の古泉が居た。

離れたくない。
別れるなんて言うなよ。
もっと素直になるから。
好きって沢山言うから。
だから…
ずっとそばに居てくれ。

なんて言葉を飲み込んで、残ったのは後悔だけだった。
こんな青空の日にさよならなんて…


「古泉…好きだ」


つづく
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