text〜古キョン

□コイゴコロ【完結】 ☆☆☆
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「あの時、初めてあなたと握手を交わした時。僕は心に誓ったのに」

古泉はそう言っていつもの笑顔ではなく切ない笑顔を見せ…

―俺を抱きしめた―

くそっ…気持ち悪い!
そう言って突き放すつもりだった。
なのに、突き放せなかった。
何故かは、俺が聞きたい。

「どうしたんですか?次、あなたの番ですよ」
「お…おう…」
「考え事…ですか?」

いつもの部室でのひととき。
何事もなかったかの様に向き合ってはいるが…
俺は、昨日お前が言ったあの言葉が引っかかって仕方がなかった。
どうしてくれるんだ、この思考回路を!なんて言えるわけがない。
俺は、「はぁ…」と溜息を吐いてオセロに目を向けた。

「僕の事考えてた。なんて、あなたにはないのでしょうね」

そう、古泉は呟いた。
いいや…お前の事考えてた。
なんて口が裂けても言えん。
こういう時、目の前のムカつく程のハンサムなこの男は俺の表情を読み取ったりする。
案の定、クスりと笑う声が届いて腹が立ったのは言うまでもない。

*  *  *

「今日はもう終わりですね」

古泉の言葉で俺は現実世界に戻された。
決して異世界に飛んでいた訳ではないが、俺は少し考え事をしていた様で、自分の周りで起こっていた出来事が把握できないでいた。

「アレ?ハルヒ達は?」
「先程帰りましたよ。あなたに伝言を残して」
「な…何て?」

全然気付かなかった。
しかし変だ。
ハルヒが伝言なんてものをするとは。
あいつなら直接俺の頭をぶん殴ってでもこちらの世界に呼び寄せて話すだろうに。
まさか…本当に異世界にでも飛ばされていたんじゃないだろうな。
もしくは、閉鎖空間!

「僕と手を繋がないと行けないですよ?まぁ、僕としては大歓迎ですが」
「お前、心の声とか聞こえるのかよ。ったく、超能力者みたいな…あ、超能力者だったっけ?」
「はい。超能力者ではありますが、残念ながら、そんな力はありません。仮にあったとしたら…」
「何だよ」
「いえ、何でもありません。涼宮さんからの伝言ですが…」

古泉はオセロを片付けながら、ハルヒからの訳のわからん伝言を俺に言った。

何でも、俺が恋患いしているかの様にボーっとしてるから、古泉に相談でもして、ただでさえスッキリしない頭をシャキッとさせろ!だとか。
あぁ、悪かったねぇ、スッキリしない頭で。
って、ハルヒに言われる筋合いはない。
いつも程良くスッキリしているつもりだ!
程良くって自分で言うのも何だが。
大体、古泉に恋愛相談なんてしてみろ。
何を言い出すかわからん!
というか今、俺の頭の中を独占しているのはこいつだ。
いや、恋とかそんな古泉に対して気持ち悪い感情を持ってはいない。
ただ、気になって仕方ないんだ!
古泉自身にではなく、古泉の言葉にだ!

「恋患い、だと良いんですが」
「はぁ…お前も何訳のわからん事を言ってるんだ。考えてもみろ。毎日同じメンバーでハルヒに振り回されて、イラつかせたら閉鎖空間が発生してお前は神人とやらと戦わなきゃならん。ハルヒの顔色伺いながら生活している俺に恋なんてしている暇がどこにある」
「ごもっともです。しかし、恋愛感情なんてセーブ出来るものではないでしょう?心を独占されて頭の中はその人の事でいっぱいになる。どれだけ忙しくても、その人の事を考えたら頑張れる。そういうものだと僕は思っています」
「確かに、そうかもしれん。で?お…お前は、恋…してるのか?」

オイオイ…何聞いてんだ、俺。
コイツはとにかくモテる。
あぁムカつく。
一度で良いから、廊下を歩くだけでキャーキャー言われてみたいもんだねぇ。
で?どうなんだよ、古泉?

「恋、してますよ。決して許されない恋」

古泉の目は深みを帯びて、俺を見ていた。

―沈黙―

どれだけの時間が過ぎたのだろう。
いや、ほんの数秒間の沈黙がえらく長く感じただけなんだが。
返す言葉を失った俺に古泉は、いつものハンサムスマイルをしてみせた。

「結構アプローチしているのですが、全然気付いてくれなくて。あぁ、好きになってはいけない相手にアプローチなんてしてはいけないですよね。困ったものです」

何故そんな苦しい恋をこいつは選んだんだろう。
まぁ、好きになってしまったものは仕方ない。
と言うか、何で古泉の恋バナを聞く感じになってんだよ。

「良いんじゃねーの?許されない恋でも。
お前なら強引に連れ去ったりしそうだけどな」
「はい。出来ることなら」
「そこは否定するところだぞ、古泉」
「すみません」

古泉と柄にもなく恋バナなんぞをしていたら、部室内は薄暗くなっていた。

「電気、点けましょうか」
「それよりもう帰ろうぜ。ハルヒ達も帰った事だし、部室に残る必要もないだろ?」
「それはそうなんですが」
「なんだよ」
「いえ、何だか帰りたくなくて…」

古泉は昨日と同じせつない笑顔を俺に見せた。

「じゃあ、お前は残って一人オセロでもやってろ。カギ忘れんなよ」

俺は自分のカバンだけを取り立ち上がった。
これ以上古泉の顔を見ていられなかったからだ。
何故だかわからんが、こいつのせつない笑顔を見ていると胸が苦しくなる。
俺まで辛くなる。
何でお前はいつも笑顔なんだ?
作り笑顔だって事、俺にはバレてんだよ。

「待ってください!」

古泉は立ち上がった俺の腕を掴んで、真っ直ぐ目を向けた。
辛い…止めてくれ。
そんな目で俺を見るな。

俺は古泉の手を振りほどいて、部室の扉へと向かった。

「キョンくん…」

突然古泉から滅多に呼ばれない名前で呼ばれ、足を止めた。
このタイミングで名前とか呼ぶなよな。
気になって仕方がないだろ。

「お前、今どんな顔してると思う?」
「え?」
「最悪だ。お前を見てキャーキャー言ってる女子にも見せてやりたいもんだね。人気ガタ落ち間違いナシだ」
「女子の人気なんて、どうでもいいです」
「そうかい…」
「僕は、あなたが…」

何を言うつもりだ、古泉。
またそうやって俺の頭の中をかき回すつもりなのか?
お前の言葉に振り回されるなんてどうかしてるぜ。

俺は薄々感じていた。
逃げ出そうと思えば簡単にお前から逃げ出せたんだ。
でも、心のどこかでブレーキがかかった。
俺の中で、お前の地位は急上昇しているみたいだぜ。

「古泉。もう俺の前で作り笑いをするな!それが約束出来るなら、寄り道してやる」
「え?………はい」

古泉は笑った。
俺はこれが見たかったのかもしれん。
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