text sample〜シズイザ

□if…☆☆☆
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「あぁ、また始まった」

まるで日常茶飯事のようにその場にいる人々は口々に呟いた。
池袋ではとても有名な出来事、二十四時間戦争なんて名前を付けられる程に激しい、でも…ただの喧嘩。
ガシャンと大きな音を立ててカラフルに彩られた自動販売機が宙をまって地面にめり込む。
決して大地震が起こった訳ではない。
人とは思えない力量で自動販売機を投げ飛ばす事が出来る男が、ここ池袋にはいる。

「あーあ…また修理費が嵩むよ、シズちゃん」
「いーざーやーっ!その名前で呼ぶんじゃねーっ!」

シズちゃんと呼ばれた男は自動販売機を投げ飛ばしただけでは物足りず、次は道路標識をメキメキと引き抜くと、槍投げの選手のように標的目掛けて投げる。
しかし、軽々とした身のこなしで黒いコートの裾をひらひらと靡かせながら臨也は標識を避ける。

「シズちゃんさぁ、簡単に標識引き抜いたりしてるけど、それが無くなるせいで事故が起きる可能性は大いにあるんだよ。だから、俺の事は見逃してその投げた標識元に戻しなよ」

臨也の尤もな意見が逆に静雄の怒りに触れ、腕の彼方此方に浮かび上がる血管が今の彼の状況を示していた。

「理屈ばっか捏ねてねーで、命乞いでもしてみろよ。そしたら、ちったぁ手加減してやっからよ」
「君の手加減がどれ程のものなのか知りたい気もするけど、遠慮しておくよ。…あぁ、」

臨也は突然空を見上げてポツリと呟く。

「もっと違う出会い方をしていたら、俺達仲良くなれてたのかなぁ」

少し寂しげな顔を見せる臨也に油断した静雄は、ヒュンッという音と共に華麗に腕を切り付けられる。

「あはっ。一瞬そうかもな、なんて思ったでしょ。油断大敵だよ、シーズちゃん」
「いーざーやー!いっぺん死なねーとわかんねぇみたいだなぁ」

指をポキポキと鳴らし、静雄は一歩一歩臨也に近付く。
額にも血管を浮かび上がらせ、怒りの度合いは頂点にまで達していた。
しかし、臨也は恐れる事無く余裕の笑みを見せる。

「殺せるもんなら殺してみなよ。でもね、俺の居ない世界は君にとって、とても退屈だと思うんだよね」 
                    
ナイフを構え静雄を睨む目は少し沈んでいた。
それも全て臨也の計算なんだと、静雄はお構いなしに標識をもう一本引き抜き振り回した。

いつもと変わらない喧嘩。
池袋で名付けられた二十四時間戦争。
もし、二人が学生時代に違う出会い方をしていたら。

………話はそこから始まる。
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