text sample〜シズイザ

□Honey
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P3〜

「おめでとう。幸せになれよ」
「静雄が結婚かぁ」

 ここは東京池袋。
ロシア人が営む一風変わった寿司屋【露西亜寿司】にてお祝いパーティと言う名の飲み会が行われ、そこで口々に発される祝福の言葉が誰に送られていたかというと、池袋最強と言われる男、平和島静雄に送られていた。
ここに集まったメンバー一同が静雄の結婚にそれはそれは驚きを隠せなかったのは言うまでもないが、池袋最強と呼ばれ恐れられている男だというのに、結婚のお祝いとなると大勢の人数が足を運ぶというのは、やはり日頃の静雄の人望であると言えよう。

酒も進み和みムードの中、静雄を取り巻くメンバーを集めてこの飲み会を主催した新羅は、ある男を呼ばなくても良かったのだろうかと頭を悩ませていた。
その人物とは、静雄と顔を合わせれば喧嘩ばかりしている、高校時代に自分が紹介した男。

「どうした、新羅?」
 
隣に座るセルティがPDAに言葉を打ち込み問いかけると、それに対し新羅は少し困った表情を見せた。

「臨也は呼ばなくてよかったのかな」

その一言にセルティが答えるより早く、向かいに座る遊馬崎が片手を顔の前でブンブンと横に振って答えた。

「呼ばなくって正解っすよ。折角の祝いの席で血は見たくないっすから」
「そうだな」
 
遊馬崎の隣に座る門田も同意見のようで深く頷いている。
それ程に平和島静雄と折原臨也の中は険悪で、二人を止めるなんて事は普通の人間には不可能と言うのが一番正しい。
しかし、池袋では犬猿の仲として有名であるというのに、ワゴン組唯一の女性狩沢はウキウキした表情でこう言った。

「池袋最強の男の結婚を邪魔する影、折原臨也。実は彼は平和島静雄に想いを寄せ、略奪愛へと踏み出すのであった。とか言うシチュエーションには…」
 
と、言った所で最後まで言葉を言う事は許されず、門田の「ならねーだろ」の一言でバッサリと妄想は切られてしまう。
それにも懲りずに狩沢は、強ち外れてもないと思うんだけどなぁ、と呟いた。

「世の中、二次元のようにはいかないっすよ。出来る事なら俺も二次元の世界への入口を見つけて可愛い子ちゃん達とキャッキャうふふで」

と、妄想まっしぐらではあったが、そこは渡草がビシッとシャットアウトする。
このように成り立っているワゴン組の中で一番静雄と親しいであろう門田が今回の結婚への経緯を聞き始めた。

「そういや、何で急に結婚なんてすることになったんだ?」
「あぁ、それは幽の奴が…」
 
話はこうだった。
静雄の弟で俳優としてとても有名な羽島幽平という芸名の持ち主、本名平和島幽が今回の結婚話を持ち掛けてきたのだと言う。
幽の仕事関係者が結婚相手を探しているという事で兄の静雄に白羽の矢が刺さったのではあるが、会うだけで良いと言う一度きりの食事会で事もあろうか結婚へと話がズルズルと進んでしまったと静雄は言った。
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