text sample〜シズイザ

□偽りの恋☆☆☆
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好きな人の事をどうして素直に好きと言えないのだろうか。
こんなにも人間を愛して、散々人前で人間が好きだと言えるのに、肝心な人には決して好きとは言えない。
わかってる。
全て自分が悪い。
心の中に秘めた気持ちを打ち明けられないのは、そういう状況を自らの手で作り上げてしまったから。
だから俺はずっとこのまま、池袋では有名になってしまった犬猿の仲を貫こうと心に決めた。
そう、そのはずだったのに…


*  *  *


「仲良くなる方法ねぇ…」

池袋のとあるマンションで、白衣に黒縁眼鏡という、いかにもな医者スタイルで腕組みをした男が頭を悩ませていた。
事の発端は、中学からの友人で情報屋の折原臨也が、暇つぶしのように特に診察などで用があった訳ではなく訪れたマンションで呟いた一言から始まった。
その言葉が臨也から発されたとはどう転んでも考え難いもので、まるで思考が停止したかのように良い答えが新羅には浮かばなかった。

「新羅、聞いてる?」
「聞いてるよ。ただね、何でそんな考えに至ったのか聞いてもいいかな?じゃないと、適切な答えが出せそうにないんだ」
「そうだね…」

と言ってひと呼吸置いた臨也は、新羅が大きな声を出さざるを得ない返事を返す。

「シズちゃんが、好きだからかな」
「ええっ!正気か?」
「俺はいつも正気だよ」

そう言って臨也は、このマンションに来て直ぐに出されたティーカップに口をつけると、一口紅茶を含んでまた話始めた。

「十六歳だったっけ?新羅がシズちゃんを紹介してくれたの」
「うん、そうだよ」

随分昔の事から話始めた臨也を見て、もしかしたらその頃から好きだったのだろうかと考えた新羅は、目の前で瞳をキラキラさせている男を少し不憫に思った。
あれほど喧嘩三昧でお互いが嫌いだウザいだと言い続けた仲だと言うのに、ずっと臨也は静雄の事が好きだったとか、とんだ片想いだ。
この際性別云々は置いといて、新羅は臨也に少なからず協力しようと思った。
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