text sample〜シズイザ

□passport
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本文P4〜

漆黒に浮かぶ黄色が眩しかった。
キラキラとネオンに照らされたここ池袋も、一歩路地に入ればそこは別世界とも言える暗闇で、上から下までほぼ黒に近い俺は、まるでその中に同化されるんじゃないだろうか、と錯覚に陥る程だった。
それでも俺の事を見つけ追いかけてくる。
だから、もっともっと暗闇に行けば気付かなくなっちゃうんだろうか、と足を進めてもまた追いかけてくる。
俺は楽しんでいた。
暗闇で見つけられた瞬間に、ポワッと黄色く光って見えるサラサラの髪が眩しくて、そんなに目立ってちゃすぐ俺に逃げられちゃうよ、って言ったら彼はこう言ったっけ?

「テメェの白い肌も目立つんだよ」

そんな言い方ずるいよ、静ちゃん。



本文P6〜

街はカラフルに彩られていて、ネオン、人、物、全てが沢山の色を放っていた。
俺の放つ黒なんて、あっという間に街に溶け込んでしまう。
それでも俺の事を見つける静ちゃんは、ある意味凄いよね。
人の波に流されるように歩く。
前を歩く女の子達は楽しげに彼氏の話に花を咲かせている。
隣には人に無頓着そうな青年がヘッドホンから流れ出す世界に浸っている。
そして、その隣には…と、人間観察を行う。

人で溢れるこの街は観察対象に溢れ、楽しくて仕方がない。
真っ直ぐ前を向いたって、先が見えない程人が溢れている。
少し遠くを見ようと視線を上げたって、並みの高さじゃ目立たない。
並みの高さじゃ…

「静…ちゃん」

驚いた。
対に流れる人混みに彼が居た。
頭一つ分飛び抜けた高さに黄色い髪が揺れていた。
会いに来た筈なのに、こんな形で出会すなんて思ってなくて、あと数歩ですれ違う彼に隠れるように俯いた。
一瞬、都会の騒音がぱたりと止んで、自分と彼の足音だけが響いているような錯覚に陥る。俺は心の中で祈った。
早く、早く通り過ぎて!と。
彼が横を通り過ぎた瞬間耳には騒音が戻り、何故か胸を撫で下ろす自分がそこには居て…

「!」

でも、安心なんてものはすぐするもんじゃないな、と後悔した。
肘を掴まれて、人混みをグイグイ掻き分けながら前へ進む長身の後ろ姿を眺め、そう思った。

「痛い…痛いって、静ちゃん!」
「その呼び方止めろ」

たどり着いた人気の無い路地で壁に背を付けると、目の前の男は両側に手を突いて俺を拘束する。

「大丈夫だって。俺は逃げないから」
「何してやがる」
「何だって良いだろ?別に」

漆黒の背景に黄色い髪が揺れている。
そうそう、これが好きなんだよね。

「ねぇ、静ちゃん」
「何だ?」

彼は手を突くのを止めて、タバコに火を点ける。

「抱いてよ…」

そう言って彼の口元からタバコを奪うと、自分の口に運んでみた。
…苦い。
 

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