text sample〜古キョン

□Planet Love
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ずっと一人だった。
一人に慣れすぎていた。
だから、人の温もりがこんなに心地良いだなんて、全く知らなかった。
俺は甘い蜜に誘われるように、ゴロゴロと坂を転がり落ちるように、堕ちた。

*  *  *

「総長、ですか?」
「そう!古泉くん!あなたを、本日をもって幕僚総長に任命するわ」
「は、はい。拝領します」

目の前で繰り広げられているやり取りに、何故自分がここに呼ばれたんだろうと疑問を抱いていると、閣下と呼ばれる所謂この戦艦のボス『涼宮ハルヒ』が、耳にキンと響く大きな声で俺を指して言った。

「キョン!あんたは本日付けで作戦参謀なんだから、しっかり働きなさい!」
「はぁ?何で俺なんですか?」
「ご指名よ」
「ご指名?」

さっぱり意味がわからなかった。
ある日突然この戦艦に紛れ込んできた俺を作戦参謀に任命するなんて、どんな上司か顔を拝んでみたいもんだ。
作戦参謀なんて、もし俺がどこぞのスパイだったら、裏切るには最高のポジションだぜ。

「閣下。俺は彷徨っていたところを拾っていただいた身分で…。作戦参謀だなんて」
「古泉くんの折角の好意に背こうって言うの?」
「え?」

たった今、幕僚総長に任命されたこの人の指名だと言うのか?
何故俺が。

「迷惑ですか?」
「いえ、そういう訳では。ただ、何故俺なのか聞かせてもらっても宜しいですか?」

顔良し、頭良し、噂によると性格も良しときた目の前の上司に初めて質問を投げかけると、それはそれは極上スマイルという言葉がピッタリな笑顔を返すだけで、一向に言葉として紡ぎ出される事はなかった。

「古泉くんの選択肢に間違いは無いわ。有り難くその階級受け取りなさい」
「はぁ、わかりました」

今日気付いた事が二つある。
一つは、涼宮閣下が古泉幕僚総長に絶大なる信頼を置いているという事。
もう一つは、古泉幕僚総長が俺の事を少なからず戦力として必要としてくれているという事。  
何故俺が選ばれたのかは未だ謎のままだが、素性のわからん人間を選んだと思っているのは俺だけで、実は上の者は俺の事いろいろを知っているのかもしれん。
俺の知らない過去。
この戦艦に着いた時、俺の記憶は綺麗さっぱり消え去っていた。 
いつ、何が原因で記憶を失ったのかわからない。
ただ一つだけ、ここへ来て思い出した事がある。

俺は『キョン』という変なあだ名で呼ばれていたという事。
 

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