text sample〜古キョン

□A Happy New〜 ☆☆☆
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♪も〜 い〜くつ ね〜る〜と〜♪

なんて歌が聞こえてきそうな時期に突入したにも関わらず、俺達は相変わらず意味不明な市内探索なんぞを行っている。
で、今がその帰りなんだが…
解散したはずなのに、何故俺と古泉が一緒に帰っているか。
それは…今年一緒に過ごせる日は今日しかないからだ。
だが言っておこう。
今日は十二月三十日だ。
何故今日が最後かは…続きを見てくれ。


*  *  *


「古泉、お前正月は実家に帰ったりするのか?」
「実家…ですか?」

そういえば、コイツの実家ってどこなんだ?
超能力に目覚めたのが3年前って事は…
それまでは普通の学生だったわけで…。
親ぐらい居るよな。

「帰りませんよ」
「そうか…」

俺は知っている。
お前が聞かれたくないオーラを出している時の顔を。 
今、まさにそれだ。

「俺は毎年大晦日からじいさん家に行くってのが恒例行事になってるな。紅白見ながら蕎麦食って、日付が変わったら初詣。変わり映えしねー正月を送ってるってもんさ」
「ステキじゃないですか。まさに日本の年越し、そして正月。僕は…もう何年も誰かと一緒に新年を迎えた事がありません」

そんな悲しい事言うなよ。

「古泉、手を出せ」
「どうしたんですか?」
「今日は冷えるからな…」

俺は古泉の手を握って、そのまま古泉のコートのポケットにねじ込んだ。

「キョンくん?」
「寒いから…な…」
「ありがとうございます」
「何がだ?」
「あなたの愛情をしかと受け取りました」
「バカか…」

俺達はそのまま、ゆっくり坂道を下った。


*  *  *


―12月31日―

「あと少しで今年も終わる。キョンくんは今頃、年越しそばでも食べているのでしょうか」

見る気もない紅白を点けたまま、僕は携帯電話の時計とにらめっこをしていた。

「今年最後にもう一度声が聞きたい。でも…今電話をかけては、きっと迷惑になる」

大きなため息をついて携帯を閉じた。しかし、いきなり携帯が鳴り始めビックリした。

「今日、閉鎖空間への呼び出しは勘弁です」

恐る恐る携帯を開くと、液晶画面に…


―キョンくん―


慌てて通話ボタンを押す。
嬉しすぎてドキドキします。

「はい」
「古泉、今大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
「何してた?」
「あなたの事考えてました」
「恥ずかしい事を言うな!」

何だか、キョンくんが近くにいるようで嬉しい。

「もう少しで今年も終わりですね」
「そうだな…」
「お蕎麦、食べましたか?」
「いいや、まだ。そんな気分じゃなくてな…」

なんか…様子がおかしい。

「どうかしましたか?」
「今日は…寒いな」

昨日もキョン君はそんな事を言っていた。
風邪でもひいているのでは…

「具合でも悪いんですか?お見舞い行きましょうか?」
「勝手に人を病人にするな!ただ寒いから言っただけだ」
「大丈夫ですか?」
「あぁ…」

やっぱり様子がおかしい。
今すぐ彼のもとへ行って、強く抱きしめたい。

「くしゅんっ!」

キョンくんのくしゃみ…。
鼻をすすっているのが聞こえる。
やっぱり風邪をひいているのでは…。

「だ…大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。それにしても今日は冷えるな。外見てみろよ、雪降ってる。綺麗だぜ」

僕はキョンくんに促されるまま、カーテンを開けて外の雪を見た。

「!」
「な?綺麗だろ?」

驚いた。
あまりにも綺麗で。

「ホント綺麗です…あなたが…」
「何バカな事言ってんだっ!」

僕は上着も持たずに外へ出た。
あなたはいつからそこに居たんですか?
嬉し過ぎて泣きそうです。

「キョンくんっ!」

僕は雪の中に佇む大好きな彼を力いっぱい抱きしめた。

「オイ!苦しいって、古泉!」
「会いたかった…」
「昨日も会っただろ?」
「毎日会ったって足りないんです。キョンくんが足りない」
「何言ってんだよ」

キョンくんは僕の体を引き剥がし、手袋を付けた手で僕の両頬を挟んだ。

「情けなねぇ顔」

そう言って笑った。
寒さでピンク色になったキョンくんの頬が愛おしい。
あなたがそばに居れば、雪が降ってようが薄着で居ようが、寒くないんですね。

「キョンくん…」

あぁ…キスしたい…。
してもいいですよね?

「ちょ…ちょっと待て」
「はい?」
「寒い…」
「じゃあ、僕が」
「温めていらんから、部屋へ入れろ」

そうでした。
ずっと外に居たんですもんね。
このままじゃ、ホントに風邪をひいてしまう。

「古泉、手」
「手?」
「手を貸せ」

キョンくんは僕の手を握って、自分のコートのポケットに突っ込んだ。
これが彼の精一杯…。

「何だよ」
「いえ、あなたの愛を感じてました」
「ポケットから手を出したいか?」
「すみません」

僕達は、手のひらからお互いの温もりを感じながら、部屋へと向かった。

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