text sample〜古キョン

□純愛ラプソディ ☆☆☆
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「今年は…」

そう言って言葉に詰まった古泉は、真剣な眼差しでしばらく俺を見つめ、「短冊書かないんでしょうかね」と一言告げてニコりと笑った。

「もうすぐ笹の葉引っ提げて現れるんじゃないのか?」

とりあえず、そう返事をしたが…目の前の男は別の事を考えていたに違いない。


*  *  *


本格的に夏の始まりを告げようとしている7月。
そう、今日は七夕だ。
部室棟までのほんの僅かな距離でもじわりと汗が滲むのは、今にも雨が降り出しそうな湿度高めの天気のせいだろう。
いっそ雨でも降ってくれた方が涼しくなりそうなもんだが…七夕が雨だと天の川の水かさが増して、織姫と彦星は逢えないんだっけ?
架空の恋愛事情を心配するわけではないが、年に一度しか逢えないとか言われてる織姫と彦星が、天候でデート打ち切りは気の毒だとか思ってる時点でどうかしてるのかもしれん。
俺は部室棟の窓から空を見上げた。

「振りそうだな…」


*  *  *


「遅いっ!」

部室に入るなり響いたハルヒの大きな声にビックリしていると、既に席に着いていた古泉がニコりと笑って「こんにちは」と挨拶をくれた。
俺が座ると予測された席には去年と同じ青の短冊。
はぁ…今年もやるのかよ。
十六年後にしか叶えてもらえないんだろ?
三十歳過ぎてる俺が何を願ってるかなんてさっぱりわからん。
だから、やっぱり今の願いを書いてしまうもんなんだぜ。

「キョン!アンタまた去年のようなしょうもない願い事書いたら、承知しないわよ!」
「しょうもないとはなんだ!幾つになっても金は必要だろうが!」
「そりゃ、お金も必要よ。でも、願い事ぐらい夢のある事書きなさいよ」
「わかったよ…」

俺はハルヒの大きな声から開放されると、目の前のマジックを握り締めて頭を抱えた。
夢のある願い事ねぇ…。
さっぱり思いつかん。

「随分と悩んでらっしゃいますね」

隣に座っていた古泉がこれでもかという程に近付いて、低く小さな声で話しかけた。
止めてくれ…その声に俺は弱い。

「お前、顔が近い」
「ドキドキしますか?」
「知らん」

ヒソヒソと周りに聞こえないように話していると、ハルヒに私語を慎め!と注意される。
あ…去年もこんな事あったな。
なんて思いながら古泉と笑った。
こうやって十六年後も古泉と一緒に居られたらいいのに。
ホントに書きたい願いって…きっとこれだ。

各自短冊を書き終えて笹の葉に吊るすと、ハルヒが突然俺に指摘した。

「キョン、これ何?」
「何って…どう見ても願い事だろ?」
「確かにね。ただ…アンタが書いたとは思えないわね」
「悪かったな。夢のある願い事書けって言ったのはお前だろ」
「そうねぇ」

ハルヒはメンバー全員の短冊に目を通すと帰り支度を始めた。

「最後の人、鍵よろしく」

ハルヒに続き朝比奈さんと長門、そして古泉も帰り支度をして立ち上がる。
去年みたいに朝比奈さんからのメッセージ付き短冊はこないものかと期待に胸を膨らませていると、俺の視界にスッと緑の短冊が現れた。
緑の短冊…古泉か。
内容を見る前に部室のドアはパタリと閉まって、俺は一人取り残された。
裏向きに渡された短冊をヒラリと返し内容を読み取る。


『今年の七夕は、恋人と一緒に過ごせますように』


願いを叶えてもらえるのは十六年後か二十五年後だぜ、まったく。
俺は部室のドアノブをゆっくりと回し、ドアを開けた。
外を見ずに待っていると、短冊を渡したであろう張本人の足音がコツコツと響いて部室に現れた。
室内に迎え入れると同時に閉まったドアの音と、それに続いて閉められた鍵の音が耳から離れない。

「帰らないのか?」
「織姫と彦星は年に一度の逢瀬でイチャイチャしているんですよ。僕達も便乗してみてはどうでしょう」

お前はイベント事とか関係なくいつもイチャつこうとするじゃないか。
便乗って…何を今更。

「残念だったな。今日は生憎の雨だ。織姫と彦星の年に一度の逢瀬はお預けだ」
「おや、そういえば先程から雨が降り始めたようですね。では…」

そう言って古泉は俺を抱きしめドアに押し付けた。

「では…って何だよ!お前、まさか」
「えぇ、そのまさかです」

古泉は突然俺に口づけをすると、緩んだ歯の隙間から舌を入れ、濃厚なキスに切り替えた。

「……んっ…」
「部室でするのも、たまには良いでしょう?」
「…良いわけないだろ」
「ですが…」

古泉はスルスルと俺の体に手を這わせ下に進むと、濃厚なキスで感じて勃ち上がった部分を撫で上げた。

「…んっ」
「折角のデートを雨で台無しにされた織姫と彦星の代わりに、僕達が愛を確かめ合うっていうのはどうです?」

古泉は話してる間も手を休めず、ドンドン俺を追い込んだ。

「あなたのココは、もうすっかりその気になっているようですが」
「……ちがっ…やっ…」

ガクッと膝の力が抜けた俺を、古泉は支えるようにギュッと抱きしめる。

「古泉…」
「どうしました?」
「お前が言ってた今年は…って」

俺は古泉の背中に手を回すと、ボソボソと呟いた。

「短冊を気にしてたんじゃなくて…俺と…」

そう言って言葉に詰まると、俺の頭を古泉はゆっくり撫でた。

「去年の今頃は、朝比奈さんにあなたを独占されてしまって、いやはや…参りました」
「古泉…」
「今年は…どうしてもあなたと過ごしたかった」
「随分とロマンチストだな」
「あなた限定で」
 

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