text sample〜古キョン

□HOROSCOPE ☆☆☆
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「結構当たるって有名だからっ、みんなで読むがいいさ〜。ア〜ハッハッ」

嵐のように現れ、嵐のように去る。
神出鬼没な鶴屋さんが持ってきた占い雑誌が、俺の今日から一週間を大変なものに変えてくれたとしか言いようがない。
信じた俺も俺なんだが…


*  *  *


………シーン………
SOS団には似つかわしくない光景だ。
メンバーが部室に集まっているというのに誰も話そうとしない。
長門は相変わらず読書中…ていうか、コイツは居ても殆ど喋らないが、朝比奈さんも黙々とお茶を準備し…まぁ、彼女もハルヒに何かされない限りはワーワー騒ぐ方ではない。
この静けさを生んでいるのは、ハルヒが黙って雑誌に釘付けになっているからだ。
それにしても、占いに興味を示すとは…。
ハルヒもやっぱり普通の女子高生なんだな。

「くだらないわ、占いなんて」

さっき言った事は忘れてくれ。
俺は溜め息を一つついてハルヒを睨んだ。

「お前なぁ…それだけしっかり読んでおいて、くだらないとは何事だ」
「あら、キョン。あんた占いなんて信じるの?」
「そういう訳ではないが…」

俺はこれ以上何を言っても無駄だと理解し、朝比奈さんがスッと差し出したお茶を飲んだ。

「美味しいですよ」

俺のこの一言に彼女は毎回笑顔をくれる。
和むねぇ。
マッタリとした時間をこれから味わうつもりだったんだが…

「だいたい、星占いなんて」

まだ続いてたんだな、ハルヒ…

「おかしな仕組みだわ。星座で区切られるなんて、同じ星座だったら同じような運勢を辿るわけ?そんなのありえないわよ!もし、あたしとキョンが同じ星座だったとして、その星座が赤点を取ると占いが示したとしても、あたしは赤点なんて取らないわよ」

悪かったな、赤点で。
いや、そんな事が問題ではない。

「お前の考えは極端すぎる。赤点を取るなんて占い見たことないしな。占いで運勢がどうのこうのと言うより、信じる奴のモチベーションを左右するってもんじゃないのか?例えば、自分の星座が良い運勢だとテンション上がったりだとか、逆に…」
「あんた何座?」

こいつは相変わらず人の話を聞いちゃいねェ。
しかも、くだらないと言った星占いに興味津々なのは何でだ?ハルヒ。   
俺の星座を聞いたハルヒは雑誌に目をやりニヤついた。
なんだ、この背筋が凍るような感覚は。

「あんた、今週…」
「今週、何だよ」
「ねぇ、古泉くんは何座かしら?」

また俺の話は聞いちゃいねェ。
話の切り替えが早すぎるんだよ、お前は。

「古泉の星座?そんなの知らん」
「あら、そう」

星座は知らんが、誕生日なら知ってるぞ。
と言うか、もうすぐだ。
そういう自分のイベント事に疎い奴だから、わざわざ俺に言ってきたわけではない。
もちろん、調べた訳でもない。
たまたま移動教室で9組の前を通った時に、女子達が古泉に誕生日プレゼントを渡すかどうか騒いでたのを耳にしただけだ。
モテる男ってのは、どこに居ても噂になるもんなんだな。
まぁ、あれだけイケメンなんだ。
女子が好きになるのも、解らんでもない。で、誕生日が解れば星座も解るんだよな。
だが…言わん。

俺はまだ現れていないゲーム相手のためにオセロを長机に準備した。
今日はオセロの気分なんだよな。
どうせアイツは反論しない。
俺がやりたいゲームを【古泉一樹】という男はいつも黙って相手してくれる。
アイツが提案したゲームに関して俺は反対するのに。
勝手だよな、オレ。

「あら、キョン。古泉くんは今日来ないわよ」
「そうか…」
「だから、これでも見なさい」

俺はサラッとハルヒに返事をする。
そうか…アイツ今日来ないのか。
結構ガッカリしている自分を隠す。
こういうのが…平静を装うってやつか。

ハルヒが机の上に置いた占い雑誌を無視して、俺はオセロを片付けた。
正直、もう部室に用はない。
だが、今帰ったらハルヒが何と言うか。
ん?
古泉が部活に出ないって事は…閉鎖空間の発生?
アイツ何も言ってなかったぞ。

「なぁ、ハルヒ。古泉はバイトか?」
「バイトじゃないみたいよ。クラスの女子に呼ばれてどうとか言ってたわ」

そんな理由で古泉は休んでもいいのかよ。
俺は来ないと死刑とか言われんのに。
古泉の奴…そういう理由だから俺にメールの一つも寄越さない訳か。
なんか…ムカつく。
嫉妬?まさか。
隠し事されたみてーでムカついてんだよ。
古泉とクラスの女子にあって俺とはない情報。はぁ…コレってやっぱ、嫉妬か。
アイツ、モテるもんな。
誕生日の事とかいろいろ聞かれてそうだな。
誕生日…予定とか入れてんのかな。
いろいろ考えていると目頭がツンと痺れて、目尻からは透明な液体が滲んだ。
ハルヒに見つかってはマズいと思った俺は、「あぁ、眠い」とわざと呟いて、机に俯せになって涙を拭った。
古泉ごときに何泣いてんだよ。
誕生日を誰と過ごそうと俺には関係ない。
古泉なんて…

―古泉…―

「見ておいた方がいい」

突然頭上から振りかかる淡々とした声。
不意に顔を上げると、そこにはさっきハルヒが置いた雑誌をペラペラ捲る長門が居た。

「どういう事だ?」

ボソボソとハルヒに聞こえないように聞き返す。
長門は雑誌のあるページに辿り着くと、俺の方にズイッと向けた。
お前も占いなんか信じるのか?
一番信じないタイプに思うんだが…

「長門、俺は占いなんて」
「見て」

長門は俺の言葉を遮って、雑誌のある部分を指差した。
えっと、それは…俺の星座ではなく古泉の星座だぞ、長門。
って…承知の上だよな。

「これがどうした?」
「あなたの運命を大きく左右する」
「はい?これ…(古泉の星座だぞ)」

俺は長門に小声で言ったが、まぁ見ろと言わんばかりに液体ヘリウムのような目が俺を見つめていた。

「はいはい、見ますよ〜」

えっと…何々?

『一生ものの大切な事が起こる』

で、これが俺に関係あるとは到底思えん。
俺は目を細めて長門を見た。

「彼にとって大切な事とは、全てあなたに関する」
「は?俺な訳ないだろ?ハルヒならともかく」

少し嬉しかった。
もし、古泉が俺を大切な部類に入れてくれているのなら…って、何考えてんだか。
アイツがここに存在しているのは、全てハルヒのためだってのに。
バカだな…俺。

「私が何?あら、有希も占いに興味があるの?」

ハルヒの大きな声に、俺の思考回路がパチンッと弾けたような気がした。
長門はハルヒの大きな声に全く動じず、頭をフルフルと振って雑誌を指した。

「本…」
「通販でも売ってるのね」

長門は本の通販情報から指を離すと、定位置に戻ってパラパラとハードカバーのいつもの本を開いた。
で…長門は何が言いたかったんだ?
俺は自分の星座も見てみるか…と、雑誌に視線を落とした。

え…?

『あなたを必要とする運命の人を大切にしましょう。今週は二人にとって大切な週』

運命とか一生ものとか言ってる事デカ過ぎないか?
ま…占いなんてこんなもんだよな。
ったく…くだらん。
俺はハルヒにバサッと雑誌を渡すと「先帰るぞ」と一言告げて部室を出た。

少し早めに切り上げたもんだから、まだまだ学校は学生で賑わっていた。
女子のキャーキャーと甲高い声や男子がふざけあってる声。
本来こういうもんだよな、放課後って…。
はぁ〜と溜息をつくと、校門に見慣れた生徒が居た。

「古泉…?」

女子に何か説得されて困ってる様子だが、それでも笑顔は忘れない。

「お願い!途中まで一緒だし」

あぁ、下校のお誘いね。
一緒に帰りゃ良いのに。
それとも、誰か待ってんのか?

「すみません、用事がありまして」

なんかわからんがイライラする。
俺は校門へ向かってスタスタと歩き、古泉の前を素通りしようと決めた。
アイツが誰と帰ろうが何をしようが俺には関係ない。
自然に…自然に前を通りすぎろ、俺!

「キョンくん!」

だよな。
普通呼び止めるよな。
素通り計画失敗に終わった俺は、渋々古泉に向き直った。

「よぉ」
「今、帰りですか?」
「まあな」
「じゃあ、ご一緒します」

俺は不機嫌丸出しで、目の前のイケメン野郎に言ってやった。
なんか…ムカつくから。

お前、下校誘われてただろ?何で一緒に帰ってやらなかったんだ?」
「見られてましたか」

見られてましたか、だと?
あの距離で見えない訳ないだろっ!
古泉が誰と帰ろうが関係ないとか言い聞かせてる自分が嫌になる。
意味不明な独占欲。
情けねぇ。

「女子と肩を並べて下校なんて、男の夢だぜ」
「そうですか?僕はあなたと…」
「あぁ、わかったかわかった」

俺は「帰ろうぜ」と一言告げて古泉に背を向けた。
こいつが待ってたのって俺なのか?
敢えて聞いてみる。

「お前、誰か待ってたんだろ?」
「えぇ、大切な人を待ってました」

うわ…俺じゃねーのか。

「そいつの事待たなくて良いのか?」
「えぇ、もう来ましたから。さぁ、帰りましょう」

え?
あぁ、俺の事待ってたのか。
回りくどい言い方しやがって。
ま…それが古泉なんだけどな。
俺は心のどこかでちょっと安心すると、満面の笑みの古泉をチラ見した。
超イケメンでいつも笑顔。
背なんて俺より8センチも高くて手足も長い。
誰に対しても優しくって…って褒めすぎか?
まぁ、そんな女子にモテモテな古泉一樹が俺を選んで一緒に下校してる。
ある意味、これがホントの【この世の不思議】だぜ、ハルヒ。
俺は不機嫌だった自分をパッパと払いのけて、古泉との下校を楽しむ事にした。
クラスであった事、今日の部室が静かだった事、そして…占いの事。

「ハルヒが占いなんかに興味を示すとは思わなかったぜ」
「意外ですね」
「まぁ、あいつも結構普通の女子高生なんだな」
「その方が、こちらとしては助かりますけど」
「だな」

俺は長門に示された事…そう、俺達の占いについては言わなかった。
言ったところで、こいつは占いに興味なさそうだからな。

「あの…」
「ん?」
「ご自分の占いは…」

おいおい、興味示すなよ。
占いの内容が内容なだけに、言ったら実現させそうで怖いんだよ、お前は。

「俺は見てないぜ。占いに興味ないからな」
「らしいですね」
「だろ?お前も興味なさそうだけど」
「そうでもないですよ」

古泉はニコニコ顔で俺の顔を覗き込むと、とんでもない事を言った。

「あなたの事を思うと、占いにでもすがり付きたくなる時もありますよ」

古泉は空を見上げたかと思うと、俺の手をギュッと握った。

「っ…おいっ」

慌てて手を離した俺に、古泉は少し寂しそうな顔をして、立ち止まった。

「一生、手を握れる距離に居たいんです」
「一生…?」

俺は古泉より少し進んだ地点で足を止めた。

「あ…なんかプロポーズみたいですね、今の」
「ったく…意味がわからん」

俺は後ろを振り向かずに歩き始めた。
一生とか簡単に口にするなよな。
あの占い雑誌が実はすげー当たるやつなんじゃないかって思うだろ。

「お前が占いを信じるとはねぇ」
「いえ…信じると言うよりは、占い雑誌に運命の人との事とか書かれてたら、あなただったら良いのにとか考えてしまうんですよ」
「都合の良い奴…」
「ですかね…」

お前が占い頼みになるほど俺を好きで居てくれるのなら、今日見た占いの通りになればいいのに…と、心ん中でぼんやりと考えながら、少し後ろを歩く古泉と並んで歩ける様、ゆっくり前へと進んだ。
 

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