text〜シズイザ

□シズちゃん、ちょうだい
2ページ/2ページ

☆☆☆


「で、お返しは?」
「あ?要らねーんじゃねぇのかよ」

散々愛し合い毛布の中で静雄に包まれている臨也が、突然思い出したかの様に口にした。

「要るに決まってんじゃん!だってそれ、俺のために用意してくれたんでしょ?」
「まあ、ホワイトデーフェアの看板に釣られて買ったようなもんだけどな」

静雄は臨也から離れ毛布を出ると、持参していた紙袋を手にする。

「シズちゃん、早く!寒い!」

少し離れただけで、駄々を捏ねる子供の様に、臨也は足でパタパタと音をさせて静雄を急かす。

「ほらよ」

グイッと差し出すように静雄が紙袋を渡すと、臨也が突然驚いた表情を見せた。

「シズちゃん、これ…」
「なんだよ…」
「ちゃんと調べたの?」
「…一応な」

静雄は頭をガシガシと掻きながら返事をすると、照れ隠しをするように視線を逸らした。
一方の臨也は、紙袋の中からブルーのリボンが飾られた箱を取り出すと、静雄とそれを交互に見て、くすっと笑った。


―俺の大好きなクッキー…


「シズちゃん、よくこのお菓子屋の場所わかったね。池袋ならともかく、新宿なのに」
「最近は携帯にナビってのがあんだろ。店の名前さえ分かったら、すぐに行けんのな」
「そうだけどさ…」

静雄が携帯ナビを使えたという事に臨也は驚き、そして、自分の大好きなお菓子屋の名前をいつ覚えたんだろうかと過去の記憶を辿った。

「ねぇ、シズちゃん。俺、お菓子屋の名前なんて話したっけ?」

記憶を辿ってみたものの、さっぱり思い出せない。

「あ?まぁ、名前を直接聞いちゃいねーよ。お前が前うちに来た時に、手土産にクッキー持って来ただろ?あんまり食べ物に執着しねぇ手前が、美味い美味いって言うから名前覚えてたんだよ」
「シズちゃん、いつからそんな賢くなったの?」
「もういっぺん犯してやろうか?」
「冗談」

臨也は包みからクッキーを一枚取り出すと、大事そうに口に運んだ。
バターの風味が嗅覚を擽り、続いて甘味が広がる。
まさかこんなサプライズが待っているなんて予想外だっただけに、嬉しさが二倍三倍と膨れ上がる。
正直、期待はしていなかった。精々コンビニ等のフェア限定商品を手にしてくる事だろうと思っていただけに、自分の好きな物を記憶して買って来た静雄には満点をあげたい。

「…ありがと」
「あぁ…」

もう一枚、次はナッツが乗せられたクッキーを口に運ぶ。

「あれ、何だろ…しょっぱい」
「バカ…なに泣いてんだよ」
「え…?」

俺、泣いてんだ。
臨也は目元を手で触れると、指を滴が伝った。
人の事を調べ尽くすのを生業にしてきた臨也に
とって、自分の好みを知り与えられるという経験は初めてだった。
だから、感情のコントロールが上手く出来ず、溢れだした涙はポタポタと頬を濡らした。

「いつまで泣くつもりだ?………手前に泣かれると俺は、困る」
「ごめん」
「しゃあねーな」

ポスッという音と共に静雄は臨也を抱き締めると、甘い匂いを漂わせた唇にキスをする。
口腔内を味わうように、何度も何度も角度を変え、深く深く。

「もう、大丈夫か?」

静雄の問いに臨也はコクリと頷いて見せる。
そして、もう一枚クッキーを取り出すと静雄の口に運んだ。

「シズちゃん、あーん」
「…ん?サンキュ」

サクサクと音を耳に入れながら臨也は、静雄の肩にもたれ掛かる。

「ねぇ、シズちゃん。お願いがあるんだけど…」
「あ?まだあんのかよ。欲張りだな、お前」
「いいじゃん。ねぇ…」

俺の事好き?               
そう臨也はうつ向いて静雄に聞く。
すると、それに答えるように金髪を揺らして、静雄は答える。

「………好きだ」
「俺もシズちゃん、だーい好き」

ホントは「愛してる」と、聞きたかったけど、今日は花丸満点のシズちゃんだから勘弁してあげよう。そんな事を胸に秘めて、臨也はもう一枚クッキーを口にした。


☆END☆
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ