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□冬の海で、君と
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高校最後の冬。

オレは隣にいる彼に、ぽつりとつぶやいた。


「海、行こうか」



山本は何も言わなかった。
ただ、笑ってうなずいただけ。


正直、どうして海なんか行こうと思ったのか自分でもわからなかった。


それでも、電車やバスを乗り継いでたどり着いた海に、ここに来て良かったと思えた。






「さすがに寒いね」

「行きたいって言ったのツナだろ」


屈託もなく笑う山本は、嘘みたいにいつも通りだった。


「なあ、ツナ」

軽い沈黙のあと、山本が砂を掴みながら口を開いた。

「……獄寺は、いつこっちに戻ってくるって?」

誤魔化した。直感的に、そう思った。

今はその話したくないはずなのに、とも。


「帰らないって言ってた。向こうで合流するらしいよ」


「もう右腕になりきってんな」

ハハッと笑う山本の目には、明らかに陰っていた。

彼の手のひらからは、さらさらと砂が零れ落ちていた。


オレは何も言わなかった。
何も言わずに、ただ落ちゆく白砂を見つめていた。


この海辺の砂は、足を踏み入れれば必ず靴のなかに入りこんでしまうほどさらさらだった。

だから、山本の手のひらにはほんの少しだけしか残らなかった。


白く細かい美しい砂。

それはまるで、オレたちがどこかで忘れてしまった、大切な大切な宝物のように



長い長い沈黙のあと、自らの手のひらをじっと見つめていた山本の顔が突然くしゃりと歪んだ。


「獄寺が、羨ましいのな……」

「どうして?」


わかっているくせに、とでも言いたげに、山本はオレを睨んだ。


「オレも、ツナの右腕になりたかったんだぜ」

ツナの隣は、オレだったのに。



拗ねた子どものような言い分に、オレは笑った。

だってこんな顔、オレ以外の前ではしない。

そんな、ほんの少しの優越感。



笑い続けるオレに、山本は手のひらに残った砂を投げつけてきた。

さすがにこれは黙っていられず、しばらく壮絶な砂の掛け合いが続いた。




小一時間ほどして、オレたちは砂浜に仰向けに転がっていた。

もう全身砂だらけだ。




はあ、と大きな溜め息をついたあと、再び山本が口を開いた。


「冬の海って、灰色なのな」


「え?そう?」


「ああ。すんげぇ冷たそう」



オレはおきあがって、目の前に広がる雄大な景色を眺めた。


「灰色……かなぁ」


「そう見えねえ?」


振り向いたときに見えた山本の顔に、オレは納得した。


「オレには別の色に見えるな」


「え?嘘、何色?」




「山本の、悲しみの色」




山本が、息をのんだのが、手に取るようにわかった。





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