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□寂しくないよ、
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聞き慣れたチャイムが鳴る。

いつもなら喜び勇んで帰りの準備をする綱吉だったが、今日だけはこの時間が来て欲しくなかった。
本来なら、補習もなく、ゴールデンウィーク前日なだけあって最高な気分のはずだったのだが、

(くそぅ…リボーン奴、無茶言ってくれるよ……)


「ツーナ!帰ろうぜ!」
「十代目!お荷物お持ち致します!!」

「山本…獄寺くん…」

綱吉はひきつった笑顔で二人を見た。

(いつもより3倍増しに笑顔が煌めいて見えるのは、オレの今の心境のせいだよな……)


「ごめん、二人とも。実は今から大事な用があって…リボーンがらみなんだけど…先に帰っててもらえるかな」


「そ、そうっすか。リボーンさんがらみなら仕方ないっすね」

「残念なのな。じゃあな、ツナ。連休中遊びまくろうなー」

「う、うん。ごめんね、バイバイ」


内心置いてかないでと叫びながら、綱吉は二人に手をふった。

二人が心底本当に残念そうな顔をしていたことが救いだった。


「さ、さーて、行こっかな。


……………応接室に」





つ、着いてしまった。
綱吉はこの世の終わりのような顔で応接室と書かれたプレートを見上げた。


(こ、殺される……!やっぱり無理だよリボーン!!)

だが、やらなければ今年のゴールデンウィークは地獄の特訓だ。

(い、行け!沢田綱吉!男だろ!!)


コンコンッ


「………」

(返答なし!?き、聞こえなかったのかな。い、いいや!言っちゃえ!!)


「あ、あの、雲雀さん。いますか?沢田綱吉です。その、お話があるのですが」


「………いいよ、入って」


「お、お邪魔します…」


震える足で応接室へと入った。
目の前には並盛中風紀委員長の雲雀恭弥が、椅子の上でふんぞり返っている。

綱吉はゴクリと喉を鳴らした。
とりあえず、第一関門突破だ。


「何の用?」


黒曜中での事件や指輪戦で共に戦ったとは言え、未だに綱吉は彼の好戦的な性格に慣れないでいた。

(少しは、雰囲気柔らかくなったとは思うけど…)


慣れないものは仕方ないのだ。


「ええっと、その、5月5日の日、予定空いてますか?」

「何で?」

(こっちが知りたいよ!!)

リボーンに言われたから、と言いそうになって、なんとか踏みとどまった。
絶対名前を出すなと言われていたんだった。

「な、何でもです。えっと、もしも空いてたら、並盛公園に来て欲しいんです、けど」


「わかった」


「ええ!?」

「何その反応」

「いいいいいえ!何でもないです!!」

「じゃあもう帰ってよ。僕も暇じゃない」

「は、はい…」


夢見心地のまま、綱吉は応接室を出た。

(嘘だ……あの雲雀さんが…てか何『わかった』って!?オレのが状況わかんないだけど!?)


そう、綱吉はリボーンに雲雀を遊びに誘うように言われたのだ。
しかも、5月5日という具体的な日時付きで。
その上、雲雀は群れることが嫌いなので他の人(助っ人とも言う)を呼べない。

どうにも八方塞がりだ。



ああああああああ!と頭を抱えながら靴箱に行くと、見慣れた人影が二つあった。


「え!?山本に獄寺君!?何でいるの!?」


「十代目!お疲れ様っす!!」

「何でって、ツナと帰りたかったからなのな」


「ふ、二人とも……」

ツナは何だか癒される気がした。
うっかりホロリときそうだ。

山本には常に癒されているが、獄寺に癒される日が来るとは思わなかった。


(いつもいつも、うざいとか思ってごめん)

「えっと、それじゃ帰ろうか」


三人仲良く校庭を歩く。
少し長くなった影さえも、楽しげに見える。




そんな、青春の1ページを体現している彼らを、応接室から覗く人物がいた。

窓から入る斜陽が眩しくて、雲雀は目を細めた。


(ああ……見えなくなる)


まさか、彼がここに来るとは思わなかった。
しかも自分の誕生日に約束をしてきた。

このチャンスを逃すわけにはいかない。

「沢田…綱吉……」


あの衝撃を受けた日から、ずっと見ていた。

ずっとずっと、欲しかった。


「絶対に、落としてあげる」



僕の誕生日が、決戦の日だ。








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