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□いとしいひとよ
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「ねぇ、レン」
その時俺たちは、俺の部屋(という名の俺たちの部屋)で、俺は雑誌を眺めていて、リンは前に歌った楽譜を読んでいた。
それが、突然リンが立ち上がって、椅子に逆向きに座る俺のところに近づいてきた。
「何?」
俺は、雑誌に視線を落としたまま聞き返した。
それが、いけなかった。
「レン、愛してる」
「――ッ!んなっ、がはっ、」
「だ、大丈夫?」
嫌な予感はしたんだよな……。むせてしまった俺の背中をさするリンに顔を見られないように、俺は前髪でかくした。
「…大丈夫。リン、お前いきなりなんでそんな」
「って、よくわかんないから、どういう感じなのか聞こうと思ったんだけど、急に話し掛けたから、びっくりしちゃったんだね、ごめんね」
や、リンさん、俺は話し掛けられたことよりも、その内容に驚いたんです。っていうか、問題の発言には続きがあったんですね。
…残念がってなんかませんよ?
「………で、何って何?どういうことを聞きたいの?」
俺は、鈍い上に無防備な相棒と長年過ごしてきたために育たざるをえなかった精神力を総動員して、顔色をもどした。
「なんかね、今度の曲もそうなんだけど、今読んでたやつにね、『愛してる』って出てきたから。好きっていうのと何が違うのかなぁ?」
レンはわかる?と狙ってやってるのか、可愛らしく首を傾げて問い掛けるリンに、いっそ白旗を上げて愛してますと叫びたい。できないけど。
「…んーっと。その違いはよくわかんないけど。あ、ほら、リンみかん好きだろ?」
「大好きだよ?レンはバナナだよね」
「うん。でもみかんがないと、生きてけないってほどじゃないでしょ?そういうことなんじゃないかな」
「なーるほど」
「あ、あとさ、えーと、その、………愛、ってさ」
やべー。顔が赤くなってる。
「うん」
「いろいろ種類あるじゃん。家族愛とか友愛とか。だから、そういうあったかい気持ちも、『愛』だろ」
でも、俺がリンに抱いてるのは間違いなく『恋愛』感情だけどね。
リンは俺に、『家族愛』とかしか感じてないんだろうなって思うと、なんか……悲しい。
するとリンは、眉根を寄せて唸った。
「うーん……じゃあね、…」
そしていきなり顔を輝かせたかと思うと、俺の両腕をつかんだ。
「じゃ、レンに愛してるって言って間違いないんだね!リンね、レンがいないと生きてけないもん」
「…………」
…これ、は。
結構、ダメージがでかい。
ヤバい心臓がばくばくいってます。
「レン?」
「な、なんでもない」
「そう?愛してるよ、リンの『親愛』なるレン!」
親愛。っていうのは、字にこそ『親』と入ってはいるけれど、それは『親族』とかの意味じゃなくて、『親しい』の意味の方。リンのことだから、「レンは大っ事な家族だもんね!」とか言うと思ったのに。
小さな小さな違いだけど、俺にとってはすごく違うから、心が弾んだ。だから、
「…俺も、『愛してる』よ。親愛なる俺のリン」
こめた気持ちに気付かれないように、俺はリンの台詞になぞるように呟いた。
「レン、顔真っ赤だよ?」
「…気のせい」
「え?そうかなぁ。熱があるなら早めに言ってね」
「はいはい」
「でも、愛してるってなんか良いね。毎日だって言いたいなぁ」
「………………毎日はやめて。お願いだから」
「なんで?」
「……時々言うからこそ余計に嬉しいもんだろ」
俺の心臓が持たないんですよ!
20090620
「の」の位置を変えただけで微妙に意味が違くなるというお話でした←
相も変わらずベタ甘のありがちネタですみません!
うちのリンちゃんは、嬉しいことは言ってあげたいと思うタイプです。