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□不機嫌
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カイメイ
「ねぇめーちゃん、そろそろ止したほうが良くないかなぁ?」
「い・や・よ。ぜぇんぜぇん飲み足りないわ」
「うんわかったからも少し声押さえて……」
カイトがそう言ったのは、今が深夜0時だからだ。もうこの時間、彼らの弟妹たちは夢の中。起こしてしまっては、被害に遭うのはいつもカイトの方なので、カイトはリビングのドアと、目の前に座るメイコの顔を交互に見た。
(そろそろいいかな)
酒盛りに付き合わされて、早3時間。酒豪のメイコも、飲み続けていたために呂律も回っていないし、体の動きも覚束ない。
カイトを強引に誘って、こんなふうになるまで飲むときのメイコは、昼間何か嫌なことがあったときだ。しかし、まだ意識がはっきりしているときは、何を聞いても教えてくれない。だからカイトは、ギリギリまで黙って付き合うのである。そして、タイミングを見て、理由を尋ねる。たとえ無意識でも、嫌なことは吐き出したほうが良いと思うから。
「それで、何があったの?めーちゃん」
メイコはとろんとした目でカイトを見上げた。
「…あんたのこと言われたのよ」
「俺の?」
今日メイコは、友人と一緒に遊びに出かけた。仲の良い友人で、たから悪口とかは言われないと思うのだが。
「あんた、かっこいいって」
よかったわね、とメイコは面白くなさそうに、度の強い酒を呷った。カイトの頬が知らずと弛んだ。
「ねぇめーちゃん、それって、」
「……………ばか」
がたんと音をたてて、メイコは糸が切れたようにテーブルに突っ伏した。顔を近付けてみると、スースーと穏やかな寝息が聞こえた。カイトは苦笑いをうかべながら、メイコを抱き上げた。
「軽いなぁ」
そのまま階段を上って、器用にメイコの部屋のドアを開け、ベッドにメイコを寝かせた。自棄酒のように呷っていたメイコほどではないにしろ、カイトもかなりの量の酒を飲んでいたが、全く危なげがない。甘い物好きのイメージが先行して、弟妹たちにもよく知られていないが、実はカイトのほうが酒に強い。
「…俺、その子のことよく知らないから、誉められてもあんまり嬉しくないけど」
ベッドに浅く腰掛けて、メイコの寝顔を眺めながら言った。
「でもめーちゃんにやきもち焼いてもらえるなら、それもいいかな」
カイトは身を屈めて、眠り姫の額にキスを落とした。
「……おやすみ、めーちゃん」
リビングを片付けて、お酒の匂い消さないとミクちゃんに怒られるなーと思いながら、カイトは部屋を静かに出た。
その数十秒後、
「………ばか」
メイコが目を開いて、そう再び呟いたことを、カイトは知らない。
20090618
初カイメイ話です。あれ、カイトがあんまりヘタれてない?
徒然草で兼好法師が、男の人は遠慮しながらも実はお酒に強いのが良いとか、そういうこと言ってましたよね?激しく同意です。吉田さん萌をわかってらっしゃる……ッ!←
それにしてもでこちゅーは可愛いと思います。二回目ですみません。