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□もう一人のお姉様
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今日は大好きなレンとミク姉と一緒に、お買物に出かけた。 メイ姉とカイ兄に渡されたリストの買い物を終えて、ミク姉がウィンドウショッピングを提案した。リンは勿論大賛成だったんだけど、こういうの男の子は興味ないかなぁと思って、レンには帰ってて良いよって言ったら、荷物持ちでいるよって付いてきてくれた。
「大丈夫?もうちょっと持つよ」「や、平気だし」
リンとミク姉は、パンとかお菓子類を少し持っているだけだけど、レンは牛乳とか野菜、果物とか、そういう重いものをたくさん持ってる。だけど片手で持ってるし、手を振りながら苦笑する姿に、無理は感じられない。 背丈は同じくらいだと思ってたけど、やっぱり男の子なんだなぁ。
「あ!ねえねえリンちゃん。あれなんか可愛くない?リンちゃんに似合うと思うな」
「あ、ほんとだ!でもミク姉向きじゃない?」
あたしはミク姉の隣に並んで、はしゃいだ声を上げた。
レンといるのはいつも楽しいけど、こういうお買物は女の子同士でも、楽しいんだから!
……なんて、浮かれてたのがいけなかったのかもしれない。
周りに知ってる人がいなくて、ここがどこなのかもわからない、この状況って、
「………ま、迷った……?」
ええ、そうなんです。
現在進行形で、迷子真っ只中です。
今日は何かのイベントがあるらしく、この中心街はかなり混んでいた。それで、気が付いたらレンもミク姉もいなくって、慌てて捜し回ったら知らない場所にいるという状況。
あんまり動き回らなきゃよかった、なんて、今更思ったけど、後の祭り。あたしは見つけた噴水の縁に座り込んだ。
きっと今頃、レンとミク姉、探してくれてるよね……。いっつもリンって、ドジだから迷惑ばっかりかけてる。申し訳ないなぁ、なんて、ぼんやりと景色を眺めながら思っていたら、すぐ近くで息を呑む音がした。
「?」
そちらに顔を向けると、左手の方にメイ姉くらいの女の人がいて、目を真ん丸に見開いて私を凝視していた。ばっちり目が合っても、目を逸らすどころか……近づいてくる?
「あ、あの……」
無言の圧力に負けて、座ったままじりじりと後退りしながら声を上げると、女の人はすっとしゃがみこんで、あたしと目線を会わせた。
……すごく、きれいな人。切れ長の目も、柔らかそうな頬も、紅い唇も、そして、豊かな桃色の髪と、桃色の瞳も。
「あなた、」
わ。声もきれい。
女の人は白い手を伸ばして、あたしの頬に触れた。驚いて、体が動かなくなる。
「…………かわいい!」
「はう!?」
いきなり抱きつかれた。
っていうか、この人今「かわいい」って言った?何が?この状況だと、リンのこと?
そういえば、前にレンが言ってたっけ。
『お前のこと、可愛いとかやたら誉める奴簡単に信用すんなよ、リン』
『……何それ。リンがかわいくないって言いたいの?』
『違っ、ちがう違うから拳を握るな!そういう奴は大概下心があるんだよ!』
『下心?……でも、メイ姉もカイ兄もミク姉も、かわいいっていってくれるよ?下心なんかあるの?』
『…………約一名は絶対にあるな……』
『え?』
『なんでもない。「家族」は別だから』
…そういう話、したなぁ。この女の人の目を見ると、下心、はわかんないけど。うん。
現実逃避でした。
「はっ、ごめんなさいつい可愛くて!」
「えっと…」
女の人は我に返ったらしくようやく離れてくれた。リンはほっとして息を吐いた。
「良いんです!気にしないでください!リンも、一緒に来てた人とはぐれちゃって「まぁ!それは大変!」
いきなり女の人はリンの手を取った。
「私も一緒に探しますわ!」
「ほえ…?あ、でも、」
知らない人に手伝ってもらうのも申し訳なくて、言葉を濁していると。
「リーン!」
「レン……」
どこからか聞こえた、馴染んだ声に安心して、ようやく視線を外すことができた。
そしたら、女の人は手をそっと離して、何故か残念そうにに笑った。
「見つかったんですね」
「あ、はいっ。ご親切にありがとう!」
「いいえ、また会えると良いですね!」
手を振りながら去っていく女の人を見送っていたら、突然腕を掴まれた。
「きゃっ」
「リン!お前何やってんだよ、ったくしんぱ「リンちゃん、良かったー。見つけられて。心配したよ」
レンを押し退けて、ミク姉があたしの両手をとった。 その温もりに、今更ながら独りぼっちの淋しさが蘇ってきて、きゅっと握り返した。
「ごめん、ごめんね。ミク姉もレンも。探してくれてありがとう」
「うん。リンちゃんが無事で良かった………ねぇ、さっきリンちゃん、女の人と一緒にいなかった?」
ミク姉は、あの女の人が去っていったほうに目を凝らしている。あたしも見たけど、あの人はもう見えなかった。
「さぁ……なんかいきなり話し掛けてきて」
「……どっかで見たことあるような気がするんだけどなぁ」
え?と聞き返そうとしたら、ミク姉と繋いでいた両手がぐいっと引っ張られた。瞬きした次の瞬間には、目の前にいたのはレンに変わっていた。
「レン?」
「……その人に、変なこととか、何もされなかった?」
「されなかったよ?何言ってんの、レンじゃあるまいし」
ほっぺは触られたけど。かわいいとか、言われたけど。
でも別に、それだけだったし、実を言うとやじゃなかったから。
笑ってそう言うあたしをよそに、ミク姉が突然振り返って(それまで、ミク姉はじっと一方向を見つめて何か考えてた)、
「ちょっと!聞き捨てならないわね、ショタ、私のリンちゃんに何したのかしら?」
「み、ミク姉?」
ど、どうしたんだろう。ほっぺをつねったり、くすぐったりするのってそんなに悪いことなのかなぁ?
レンっていっつもそんな変なことばっかりするんだもん。ま、大抵リンがしたから仕返しだったりするんだけど。
でもレンは、
「へ、変なことなんてまだやってねえよ!」
と顔を真っ赤にして叫んだ。
……あれ?
「『まだ』?」
「ちがっ、そういう意味じゃ「リンちゃん、今日から私と一緒に寝ましょう?ショタのくせして、何するかわからないもの」
「んな、それはむしろお前の方だろうが!」
何だか良くわからない言い争いをBGMに、あたしたちは家に帰った。
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