07-GHOST*2

□無意識に線引きされた境界線
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▼50000打企画
└匿名さま;[AH]ヒュウガが大怪我

*狂愛電波
└微微グロ表現、また狂愛表現が含まれます。お読みの際はお気を付けください。













「――ヒュウガ、何があった?」





日付を跨いだころ、へらへらといつものような胡散臭い笑みを貼り付け、するりと私の部屋に滑り込んできたヒュウガはなぜか全身血まみれの状態だった。いや、血まみれ、というのは適切じゃない。



右腹付近を真横に裂かれたらしい布切れは大きなポケットのような空洞を作り、だらし無く垂れ下がっている。その空洞から見えるのはたぶん素肌だ。曖昧な表現しか出来ないのは肌らしい色味が見えず、錆のようなものが付着しているからに他ならない。



そんな状態をにわかには受け入れられず、思わずインクの付いた万年筆を書類の上に落してしまう。ジワリと滲みなっていく用紙を見たヒュウガがこちらに声を掛けたが、それよりも軍服に滲み込んだ一目では分からない赤黒いそれの方が問題だ。










「……斬られたのか、お前が?」









ヒュウガは先日から教会への潜伏任務に出払っており、今日の早朝に指定の場所に迎えに行くはずだった。それが前倒しどころではなく怪我を負って帰ってきたのだ。



もちろん私にはこの男の治癒を施せる能力(ちから)があり、そのおかげで死にはしないと分かっている。けれども、そう理解しているはずなのに動揺が収まらない。



なぜなら、あのヒュウガが怪我を負うなど今までかつて考えたことがなかったからだ。化け物じみた剣の腕を持っている男が怪我を負うなんて、まるで、まるで、ただの人間のようではないか。





脳裏を掠めていく彼女の姿と、かのベグライターの姿に自然と呼吸が苦しくなる。










そんな私の心中など知らぬヒュウガは、「ちょっと深追いしたら斬られちゃった。だから治癒お願いしてもいいかな」、と困った笑みを零しながら、それでもさして問題はありませんよと冗談まじりの態度を取りながらこちらへと歩を進めてくる。




近まる距離に、次第に濃くなる血の臭い。そして、声こそ陽気であるものの死体を連想させるほど青白い顔色が照明の下で露わになった瞬間に、声を失ってしまう。




たとえばもし、痛いと叫ぶ素直さがあれば間違いなく目の前のこの男は叫んでいたはずだ。痛い、と。苦しい、と。


わき腹という急所の中でも一際痛みの走る箇所を深く傷つけられているはずなのに、泣き叫ぶこともなく、ましてや半魂を通してすらその辛さを訴えることがないほど強靭的な意志で痛みに耐え忍ぼうとする姿に、なぜ、どうして、と疑問符が浮かんでは消えていく。











(――お前にとって私はなんなのだ?)















動揺は苛立ちに変わり、恐怖は悲しみに変わる。唇を噛みしめ笑顔を作ろうとするその姿に言い知れぬものを感じ、自然と身体がヒュウガの元へと歩み寄る。




一つ、二つと深く刻まれる心音。吐き出される荒めの吐息。そして、震えながらも脇腹へと延びていく右手。


全ての動作がまるで自分の意図しないところで動いているという他人行儀な感覚。



触れたヒュウガの腹からは人肌のような心地よさなどなく、ただ生温かく、重みのある赤が真っ白な手袋を染めていく。














「―――…ァ、ヤ、たん?」



「貴様は、」












なぜ笑うのか、なぜ強がるのかが分からない。この男はいつもそうだ。絶対に他者の前はおろか、私の前ですら弱みを見せるような真似はしない。いつも一人で歩みを進め、いつも自分で事を解決する。


もちろんそれは悪いことではない。軍人として、また私の部下としては充分相応しいとは思う。しかし、秘密裏とはいえ肉体的関係、ましてや世で言う恋仲にあたる関係の私にもう少し背中を預けてくれてもいいのではないだろうか。








「――――ッ??!」









思いのままに傷口を抉るように手を突っ込む。息を飲み、小さな悲鳴と、苦しそうなうめき声は聞こえるが、私が聞きたい声は聞こえない。ひたすらに押しつぶした制止の言葉が部屋へと響き渡るだけだ。














「ヒュウガ、ヒュウガ――、」















いつものように冗談交じりでもいい。ただ一言。かつて亡くした大切な者たちからも聞けなかったその言葉を。今は、この男の口から声を聞きたいのだ。



しかし、こんなにも苦痛を味あわせているのに、そのたった一言が返ってこない。



――なぜ。どうして。
そんなヒュウガの様子に焦りと苛立ちを覚え、思わず傷口から入った手が無意識のうちに内臓を掴み取るように握りしめてしまう。




刹那、聞こえてきたのはやはり望んでいたものとは全く違う噛み殺した苦痛の叫びだった。しかもそれを機に声そのものがピタリと止み、痙攣を起こした身体は崩れるように胸へと傾れ込んでくる。





熱を持った傷口。額を辿る汗。吐き出すように繰り返される呼吸。


そんな最後まで痛みを押し殺し続けたその身体を、労るように、そして縋りつくように、抱きしめてやる。














(今、目の前に在るというのに、こんなに近くにいるのに――…)





















結局、血なまぐさい部屋の中に残されたのは虚しさと、ぽとり、ぽとり響き渡る水音だけだった。























無意識に線引きされた境界線
(どこまでもすれ違う思い)














絶対的地位の確立が好きだと書かれていたので、そちらの方向で書かせて頂きました!

一応両思いな二人なんですが、上司部下の関係としては素晴らしいものなのに、恋人関係になった途端二人の間にはひどく溝があって肝心なところですれ違うという話…。



重暗い話になってしまいましたがよかったらお受け取りください!もちろん返却有りなのでそちらの方もお構い無く(笑)


本当にこの度はリクエストありがとうございました!


10,07,28(WED)


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