「春眠暁を覚えず、か?」
ぐっすりと、それも小さな寝息を立てて満足気に執務机で眠りこけっているヒュウガを見て、アヤナミは溜め息混じりに呟いた。
アヤナミたちの周りはあたり一面書類の山、山、山。
年度末と年度始めのあれこれで先日上層部が擦り付けてきたものに他ならない。そんな端から見れば悲壮な状態の中、書類を枕にして安眠しているヒュウガはどれほどの神経の持ち主なのだろうかと首を傾げる他ない。流石というべきか、何というべきか。
「少佐の場合はいつもこんな感じですよ、アヤナミ様」
コナツが書類の手を止めて会議から帰ってきたアヤナミに身体を向けた。
その顔が何とも青白いように見えるのは気のせいではないだろう。毎夜毎夜0時オーバーで働き通しらしく現に放たれた言葉には確かに疲労感が漂っている。
「このような気候だと普段に輪を掛けてだな」
「……そうなんです」
げっそりとした顔と呆れた顔が、しかし、それでいて愛しみを込めた二つの視線がヒュウガに向けられる。たったそれだけのことなのにアヤナミもコナツも互いが云わんとしていることが理解出来てしまい思わず二人で苦笑いを溢してしまった。
「まぁ始めこそは起こそうと思ったんですけど、この人のこんな表情を見たらなんかどうでもよくなってしまいまして。このまま寝かしてあげるのも悪くないかなぁ、と」
「平和か?」
「はい。たまには平穏な1日もいいかと」
「そうだな。たまにはこういうのもいいかもしれん」
ふわりと舞い込んできた心地よい風に執務室が満たされる。外はまさに春の陽気。全開にされた窓からは高層階だというのに花の香が運ばれてきて、そんな春の匂いに自然と頬も緩んでいって。
春の陽気にあてられる
(心を和いでいく和桜)
「アヤナミ様も休憩なさいますか?紅茶に合う焼き菓子もちょうどありますし」
「そうだな。せっかくなので貰おうか。下界の桜でも見ながら一息つこうとしよう」
10,03,27(STU)