□まいごのまいごの…
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「ご注文のお二方お届けにあがりました〜。さ、約束のもの、頂きましょうか!」

にっこり。力強く笑って言い放ったのは一年は組の問題児筆頭・きり丸である。
作法委員会の某小僧と体育委員会の暴君が掘りに掘りまくって穴だらけにした校庭の穴埋めに借り出され、どうしても手が離せない状態になった富松作兵衛は、校庭に移動する途中のきり丸を運良く見つけると同時に食券一枚で仕事を依頼した。

『ウチのいつもの迷子コンビを見つけて、回収して来てくれ。無理そうだったらそこらの木に縛って放置して来てくれても良い。』と。

普通の縄は二人の勢いにブッチリ切れやすい為、最近はちょっと頑丈な値の張る縄を常備している。それをきり丸に渡して、『場所さえ教えてくれたら後で行くから』とも伝えた。
案の定、食券一枚じゃ割に合わない!と文句を垂れられたので、左門と三之助からも一枚ずつ奪え。俺が許す。と言った途端に飛び出していった。

「…随分と早くないか?」

そう、頼んだのは校庭に向かう前。道具を抱えて、移動中。
ちなみに今現在。道具を下ろして穴埋めの最中、しかも始まったばかりである。まだ大して汚れていない制服が証明だ。気のせいなんかじゃない。
けれどきり丸に連れられているのは、間違えようも無く左門と三之助。二人は電車ごっこ宜しく繋げられた縄の、お客さん部分(中央)と車掌さん部分(しんがり)に大人しく収まっている。
ちなみに運転手さん部分(最前列)は当然きり丸だ。良く体育委員会でこんな姿(電車ごっこ引率)を見かけるが、それ以外で見かけるのは初めてかもしれない。

「食券三枚も頂けるんで、コネまで使って張り切っちゃいましたからv」
「コネ?」

迷子を見つけるのに、コネ?しかもきり丸はケチで一番有名。
タダ働きは泣いて嫌がるが、他人に労働を請う時は絶対に報酬を払おうとせず笑顔でタダ働きを強要――これが学園での常識になりつつあったはず。
きり丸がタダで使えるコネ――浮かび上がるのはきり丸の親友二人。
だが、その片割れは食満先輩の近くで現在奮闘中、もう片方はさっき、まだ埋めていない穴に不運委員長共々ハマってもがいている姿を見かけたばかり。
では、他の先輩を使ったのだろうか。傍目から見ても、きり丸に甘い先輩は何人も居る。居る――が、その場合、今傍に居ないのがおかしい。

謎は深まるばかりだ。このままじゃ気になって用具委員会の活動にも集中できない。
ここは一つ迷っていないで、しんべヱから聞いたきり丸を動かす魔法の言葉その二を発動。

「きり丸、コネの正体は何だ?『タダで』聞いて『あげるぞ』。」
「はぁい!それはですねぇ〜山の友達の力を借りたんですよぉv」
「山の…ともだち?」

聞いて置いてなんだが「なんだそりゃ。」である。眉間に軽く皺を寄せ「意味が判らん」と黙り込んだ。
きり丸はそれ以上の事を言わない。ただニコニコ笑ってそこにいる。今度は山の友達ってのは何だと聞くべきか?聞かなくちゃ教えてくれなさそうな空気が微妙に漂う。

「さくべーさくべー!きり丸って凄いんだぞ!」
「そうそう!普通あんな知り合い居ないって!しかもすっげー仲良さげ!」

だが、富松の疑問には迷子二人が答えてくれるらしい。わくわくと瞳を輝かせながら、電車ごっこの縄の中で身を乗り出してくる。

「山の中に居たら、色んな動物に取り囲まれたんだ。最初はウサギだの狸だのだったんだが…」
「最終的には熊も出てきてさ。どっひゃーこりゃ死ぬね俺ら!とか思ってたら、熊の背中からきり丸がヒョイッと出てきて『帰りますよー』とか平然と言ってくんの!」
「熊の背中…っておいおい…」
「熊って言っても大人しいヤツですよ?それに山の中の事は、山に住んでるやつらに聞くのが早いんすもん。」
「しかもそいつら全員が“ともだち”なんだと。」
「言葉も通じてるっつーか、分かり合ってたっぽいし。」

きり丸の言った「山の友達」の正体にも、左門と三之助の合いの手にも唖然としてしまう。
現場を見ていないからイマイチ真実味が湧かないが、左門も三之助も方向音痴だけど嘘は吐かない。
それに一年坊主の先導する縄の中に、必要がなくなっても居続ける二人の目には『尊敬』や『好奇心』等、純粋な感情が浮かんで真っ直ぐきり丸を見ている。

「お前…ケチだけのヤツじゃなかったんだな…」
「む、失礼な!ケチじゃなくて“ドケチ”です。“ド”を、お忘れなく。そんじょそこらのケチとレベルが違いますよ僕ぁ。」
「・・・そうか、そりゃあ悪かった。じゃあ、これ約束の食券な。」
「へいっ!まいどありぃ♪またどうぞ、ご贔屓に!」

満面の笑みで食券三枚を受け取り、きり丸は電車ごっこの中から一抜ける。「それじゃあ、さよなら!」と走り去る後ろ姿に、三人揃って手を振った。

「頼んでおいてなんだが、面白い一年も居たもんだ…」
「だな!潮江先輩が気に入っているだけの事はある!」
「それを言うなら七松先輩もだぞ。通りすがりに見つけては、何時も構ってる。今度は俺も構おうかな。」
「じゃあ私も構おう!」

随分ときり丸を気に入ったものだな、と思いながら…富松は再度走り出しそうな二人を捕まえて、それぞれの委員会に送り届けてやった。


 
―――――――――――
『わか。』カマ猫様よりいただきました。



 

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