□そして私は誓いを立てた
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「乱太郎、ぼくきり丸が好き!」

友が笑顔で言った言葉に、私は背筋が凍る思いをした。

それが私の持つ意味と変わらないと知ったから。

それは私がどんなに言いたくても決して言えない言葉だったから。

「きり丸が大好き!」

事も無げに言ってのける友を前に、引きつった笑みをするほか術はなかった。

――私もだ

その一言が言えないままに。

彼は私に止めを刺した。


「きり丸もぼくのこと好きだって!」


あどけない笑顔に私の心は悲鳴を上げた。




その日からサイクルは壊れた。
あれほど規律正しかったのがまるで虚偽であったかのように。
轟音を立てて崩れ落ちるそれを、確かに私は聞いたのだ。







そして私は誓いを立てた。




二人の笑顔の為ならば、この身がどんなに引き裂かれようと





私は友であり続けよう












 
あれから早幾年。
私は彼らの友であった。
一番近くで彼らを想い、
一番近くで彼らを見守った。

時折耐え難い焦燥に襲われもした。

彼の子が泣く度。
友が苦しそうに眉を寄せる度。

頭を支配する言葉があった。





――奪ってしまえ





――何故私ではいけないのだ

――私であれば、泣かせることなどないのに

――そこにあるべきは私のはずなのに

――何故、私ではないのだ







――奪え

――奪え


――もとより私のものなのだ


――奪えよ

――奪い返せ


――私こそが相応しいのだ



――戻せ

――戻せ

――取り戻せ




――私のものだ

――私の






恐ろしく醜いそれは私の声に他ならない。



その度にあの轟音が響き、私に深々と釘を打つ。



――お前は逃げた

そうだ、私は逃げたのだ。
友との生存競争から。

――お前は恐れた

そうだよ、私は怖かった。
己をさらけ出すことが。





だから誓った






私は







二人の友であり続けると














 
それが独り善がりの自己満足でしかないことくらい、あの日からずっと気付いていたさ。








―――――――――
なんて偽善的なエゴイズム!

それだって
こうでもしなきゃ、私の心は壊れてた。


 

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