短編集

□グッバイ&サンキュー
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「さよなら」

「さよなら」


私達は最後に微笑んだ。

二人でたくさんの想い出を作ったよね。
でも、私達はもう会えない。

今日で最後。


君は新しい人と楽しく生きてね。



私とすれ違う度、悲しそうな顔。

そんな罪悪感がなくなるのなら、いっそのこと私がいなくなってしまえばいい。


君が幸せになるのなら私は喜んで手を離すの。



下は天国。

屋上は地獄。


私は天国へ旅立つわ。


「元気でね」


好きだった。

本当に本当に好きだった。


ううん。

今でも好き。


さようならとありがとう。

君にはどちらを伝えれば良かったのだろうか?


「俺、お前のこと、好きだったよ」

「うん」


過去形の告白は辛く悲しく胸にしみる。

そんな告白、今更必要ない。
悲しくなるだけじゃない。


愛しい彼に精一杯の笑顔を向けて私は目を閉じる。

君が背を向けて、いなくなるのを確かめた。

柵を越えて、天国への第一歩。


「さよなら、ありがとう」


そう呟いて、柵から手を離す。

天国へ向けて私は堕ちて行くの。


下へ下へ下へ――。


薄く笑って、意識を手放す。

世界は終わり、私は天国へ旅立った。



ねえ。
君は私のこと、忘れてしまうかな?


どうか、私とさよならと言った今日くらい、少しの時間でいい。
だから、私のことを思い出して欲しい。


綺麗だった日々をどうか思い出してね。



さようなら。


ありがとう。





END
 

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