リレー小説

□story,7
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「特別って・・・」


「まぁ、いきなりそんな事言われて混乱するなって方が無理があるわ」


これから順々に説明する、と言うホーミーさんに私は首を大きく振る。


「例えば私の血一滴が、その一滴分と同等の魔術を使えると考えて」


「それは『等価交換』っていうものと同じようなものなんですか?」


「えぇ、そうよ。寿命を削って使う魔術はまた別の話なんだけれどね。」

強い突風が吹いた。だがホーミーさんの召喚獣であるケセランパサランは少しも動じず、私達が振り落とされることはなかった。

ホーミーさんが全員の無事を確認すると、再度口を開く。

「簡単に説明するとね、私の一滴が一滴分の力になる。だけどミトサ、貴女の血一滴は予測ができないのよ」

「予測・・・出来ない?」


ホーミーさんの言葉に中々頭が追い付かない。
構わずホーミーさんは続ける。


「そう、貴女の力は未知数よ。現代の魔術学では未だにはっきりと断定できていないの」


そう言うホーミーさんの言葉に疑問を抱く。私は今まで魔術を教えてもらってきていたが、それを瞬時にこなした事などなかったはずだ。
沢山の血を出した癖に、小さなモアイしか召喚出来なかった時が良い例だ。だとすると未知数という言葉はとんだ勘違いではないのだろうか。


「だってホーミーさん、私が召喚獣を呼び出した時を覚えていますか?」


「ええ、もちろん」


じゃあ何で、そういいかける私を遮るかのように、ホーミーさんは続ける。


「ミトサ、今まで魔術を使ってきて何か変なことはなかった?」

「変な、事・・・?・・・そういえば関係ないかもしれないですが、敵に襲われたライアを見た瞬間体がカーッと熱くなって・・・
まるで全身の血が沸騰したみたいになりました」


「そう・・・やっぱり、か」

「やっぱり?」


眉間に紫波を寄せ、苦悶の表情を浮かべるホーミーさん。


「貴女の血は感情によって左右するみたいね」


今まではあくまでも推測で考えていたのだけれど、と付け加える。


「だけど目の前で見られてしまった以上、もう奴等に誤魔化しが効かないわ。奴等はミトサ、貴女の・・・『禁忌の子』の力を必ず狙って来るはずよ。」





「そんな・・・」

これ以上の言葉は出ず、俯いてしまったミトサ。

(狙って来るって・・・またあいつらが来るの?)

膝上に握られた自分の拳から、隣に横たわるライアに目線を移すミトサ。

(ライアの仇を取りたい。でも、私が傍に居たらライアを巻き込んでしまうかもしれない。ホーミーさんとゴリカだって・・・)

ライアの手を取り、ギュッと握り締める。



「とにかく何処かに身を隠さないといけないわ。」

そう言って片手を支えに頬杖をつくホーミー。行き場に困っているのだろうか。

「あのっ、ホーミーさん隠れるなら・・・私いいとこ知ってます!」

そう言ってミトサの案内で進む先に、高台と周りの木々に隠れるかのような小さな小屋が建っていた。

「隠れるには丁度いいわね。中で休みましょう。」

ホーミーはケセパサを地上に降ろした。
中に入ると、乾草の土台にシーツを被せた簡易ベッドが二つ置いてあった。その他にも手作り感のある椅子と机にランプもあった。

「昔友達と一緒に見つけて秘密基地だ!って喜んで、此処で遊んでたんです。」

そう言ったミトサの顔は、暗闇でよく見えない。


ホーミーはベッドの一つにライアを寝かせた。まだ目を覚ます様子のないライアに、不安の表情を浮かべるミトサ。

「心配しなくても大丈夫よ。朝には目覚めるわ。」

だから貴女も休みなさいと言ってミトサをベッドに促したが、動こうとしない。私はケセパサの上で寝るから大丈夫よとホーミーが言うと、ありがとうございますと言ってベッドに横になった。



翌日、ホーミーはゴリカと共に辺りを見回りに行ったり、今後の対策を練ったりと、ミトサのために最善を尽くそうとしていた。
一方ミトサは、いっこうに目を覚まさないライアに不安を募らせていた。

「ホーミーさん、ライアはいつ目を覚ますの?なんだか顔色が悪くなってきてる気がするの・・・汗もかきはじめてるし・・・」

ミトサの言うようにライアの顔は青ざめ、額に汗を浮かべていた。

「もしかしたらライアが刺された刃物に毒が塗られていたかもしれないわ。」

「えっ?」

「少し調べてみるわ。」


ホーミーは術を使い分厚い書物や古びた書物、ファイルに纏められた無数の書類、最近の魔術雑誌など、手掛かりになりそうなものを次々出した。
目を通していると、魔術雑誌のあるページに目が止まった。

「これだわ。」

ホーミーはミトサに駆け寄ると、あるページを見せてきた。そこには“近代西洋儀式魔術機関の戦闘傾向と対処法”と書かれていた。

ホーミーは目録のひとつ“短剣”を指差した。

“近代西洋儀式魔術機関の短剣での戦闘傾向とすると、8割型短剣には毒が塗られています。中には死に至る猛毒も塗られているため、戦闘時は要注意!隙を見せるとやられます。”そう書かれていた。


「ライア死ぬのっ!?」

ミトサは取り乱していた。

「大丈夫よ!猛毒だったらとっくに死んでるわ。ライアは呼吸もあるし軽い毒だと思うわ。」

ホーミーの言葉に安堵の息を漏らすミトサ。

「ライアの症状からすると芍薬という薬草で治るみたいね。」

「しゃく、やく?」

「そう。芍薬には抗菌作用があるのよ。あれを煎じて飲ませればいいんだけど・・・芍薬なんてこの辺じゃないかもしれないわ。」

考え込むホーミーを余所目に、ミトサは何かを思い出したようだ。

「トマーサが育ててたわ!私もらってきます!」

(トマーサってミトサがお世話になってた老夫婦の・・・)

椅子から立ち上がり、ローブに手を掛けたミトサ。

「待って、外は危険よ。ましてや狙われてる貴女が行くなんて。」

「大丈夫です!それに私、ライアを助けたい。」





「―――ッ、ハァ、ハァ。」
暫く走ったであろう、木々に囲まれる中に淋しげに家が一つポツン、と建っていた。
久し振りの自分の家なのにどうしてか、いつもとは違う違和感を感じた。
(……何か胸騒ぎがする、わ…。)
そう思いながらもミトサは、ドアに手を掛けた。

同時に私は開けたことを後悔した。
―――そう。
信じたくない事実が、其処にあったからだ。

***


入ると同時に、物凄い異臭が私の鼻を擽った。

「――――っ、な、に、この匂い、は…?」

まるで血の様な…そう、鉄臭い匂い…。
………血?
何で血の臭いがするの…?
疑問を持ちながらも、その暗い部屋に足を踏み入れた。
――――ピシャッ、
そう、それは水溜まりに足を入れた様な音。
一瞬、脳裏に嫌な予感がはしる。

「――――っ、トマーサ!!ターケン!!」

彼等が―――、ううん、そんな筈はない。
きっといつもみたいに、笑顔で私を迎えてくれる。
そうよ、お帰り、て――――、

「――――誰だい?」

現実は、――――私を裏切った。

ターケンとトマーサ、じゃ、ない…
私は声の主を確かめようと勢いよく後ろを向く。
だが暗闇に隠れて、顔が全く解らない。

「………あなた、誰…?―――ターケンとトマーサはどこ!?」

普通じゃないその状況に冷静を保てないミトサ。
そんなミトサの勢いにも動じず、男は吐き捨てる様に呟いた。

「ああ、彼等なら―――――――死んでもらったよ。」

頭の中が真っ白になった様な気がした。
トマーサとターケン、が死、んだ?
そんな事ある筈がない!!!

「―――そ、んなのある筈がない!!ターケンとトマーサ、が……嘘を、つくなーーー!!」
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