「イヅル」
終業時刻。
今日も殆ど手をつけることのなかった書類を机上に残し、市丸は副官の名を呼んだ。
別に残業を押し付けようというのではない。
先程から気になっていることがあるのだ。

「お呼びでしょうか」
だらりと半分身を投げ出すような姿勢の自分とは対照的に、気を付けの姿勢で馳せ参じたイヅルに市丸は笑顔で問いかけた。
「何しとるん、アレ」
指差した先にあるのは、仕事とは別の書物の山。
調べごとのようだ。
「はい。明日、真央霊術院に特別講師として招かれていまして、その教材です」
「…そら、ご苦労さんなことやね」
非番の日にわざわざ講師として出向く勤勉な副官に、市丸は半分呆れたように労いの言葉をかけた。
自分だったら、まっぴら御免だ。

だが、思い起こせば五番隊の副隊長時代、頻繁に霊術院に赴いた記憶がある。
もちろん講師として招かれていたわけだが、市丸の目的は講義ではなく、別にあった。
今自分の目の前に居るイヅルだ。
彼が院生として在籍していた六年間。
その間は一度も断わることなく、喜んで出向いた。
制服に身を包んで学業に励むイヅルを思い出し、市丸は頬を緩めた。

「懐かしいなあ」
「何がです」
イヅルが不思議そうに首を傾げる。
「イヅルの院生時代思い出してん」
嬉しそうな市丸に、イヅルは顔を真っ赤にした。
「何十年前の話ですか」
「もうそんななるんやね。ついこの間みたいや」
そう言うと市丸は椅子から立ち上がり、イヅルの肩を抱いた。
「憶えとる?あん時のこと」
「な、何ですか」
「あの教室、まだあるやろか」
「…」
目元を染め顔を背けたイヅルに、市丸は当時を思い出す。


鮮やかな青の袴を剥ぎ取った時の、彼の表情。

講義を終えた後の教室で抱いた記憶。


「イヅルの泣き顔、可愛らしかったわァ」
「…ぼ、僕は憶えてませんっ」
照れて怒ってしまったイヅル。
そんな彼を抱き寄せながら、近いうちに霊術院の制服をイヅルに着せて楽しもうと、企む市丸だった。
(終)



拍手ありがとうございました。
院生時代のイヅルが大好きです。
副隊長×院生!萌えます!!


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