ギンイヅSS

□透き
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「…市丸」
「覗き見は感心せんね」
先程まで吉良と激しい交わりをしていたはずの奴が、涼しい顔をして俺の前に立っていた。
「あかんよ。そないなことしたら」
悠然と着物の衿を直すと、いつもの不敵な笑みを俺に向ける。
「気付いてへんと思たん」
「し、失礼しました。市丸隊長」
俺は慌てて頭を下げる。
と、同時に吉良が気になり、横目で部屋の奥をちらりと窺う。
「ふふ、安心し。イヅルは気ィ失うて寝とる」
「は、はあ」
居た堪れず目を逸らす。
「キミがここに居ったことも、気付いとらんやったみたいや」
「…」
それだけ吉良が行為に夢中だったと言いたいのだろう。
市丸の言葉、嘘笑い。なにもかもに吐き気がした。
「それ」
ゆっくりと掲げられた市丸の指が俺の手元を指す。
「届けに来たん」
「あ…。三番隊に届けるようにと」
用件を告げると、俺は書類を差し出した。
「おおきに。あとでイヅルに渡しとくわ」
市丸はそれを受取ると、無造作に机の上に放った。
「それじゃあ、俺。失礼します」
さっさとこの場を立ち去りたい。
俺は会釈すると踵を返した。
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