ギンイヅSS

□怪我
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「吉良くん、手当てしてや」
四番隊舎兼救護室。
名指しで呼ばれたイヅルが驚いた様子で入口を振り返る。
そこには三番隊の隊長である市丸がひらひらと手を振っていた。
「市丸隊長」
イヅルは深々と頭を下げる。

「え、あの…今日はどうされたんですか」
「怪我してもうた」
そう言って嬉しそうに傷を見せる市丸が、この四番隊舎に来るのは、今月で三度目だった。
理由は分からないが、何かにつけて、出入している。
そして決まってイヅルを相手に指名してくる。
イヅルの腕を買っている、と思えば嬉しいのだが、正直言ってたいした治療でないことが多い彼の怪我。
目的の分からない市丸の行動に、イヅルは少々困惑気味だった。

そしてやはり今日も…。
「えっと、これは虚討伐か何かで…?」
怪訝な表情でイヅルが訊ねる。
市丸が差し出した右手の甲には、小さな引っ掻き傷。
はっきり言って、放っておいても治る程度だ。
大体隊長であるはずの市丸が、こうも頻繁に出歩いて良いはずがない。
それに四番隊とてそうそう暇ではないのだ。
しかし市丸が名指しでイヅルを指名して来ては、本人であるイヅルも、他の四番隊員も誰も断わる事は出来ない。
隊長の卯ノ花が居れば別だろうが、そこは計算済みなのであろう。
彼女の居ないタイミングを計って、市丸は来ているようだった。
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