ギンイヅSS

□紅花翁草
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何年も前の或る春の日。
市丸隊長が僕に花を摘んでくださった。
真っ赤なその花はアネモネ。
隊長はその花を僕の髪にさして、
「やっぱり、よう似合う」
そう仰った。
「ありがとうございます」
僕は嬉しくて、自分の部屋に帰った後も一輪挿しにさして、枯れてしまうまで大切にした。
隊長はそれを見て、たいそうお喜びになって、こうも話してくださった。
「イヅル、その花の花言葉、知っとる?」
「いえ」
「ほな、ボクが教えたる」
抱き寄せられた僕の耳元で、市丸隊長が囁く。


「キミを愛す」


その時の僕ときたら、一輪挿しの花より赤くなっていたに違いない。
今でも思い出すだけで、胸が押しつぶされそうなくらい切なくなる。
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