□向日葵
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初めて会話したのはいつだっただろう。
最後に会話をしたのは中学校の卒業式の後。泣きながら友達との別れを惜しむ私にポケットティッシュを渡してくれた時。
あれから何年経っただろう。
色褪せていく思い出の中に彼女はいつまでも…―


「菖蒲(アヤメ)さん」
「はい」

上司に呼ばれ席を離れる。
その隣に立っていたのはかつての級友。懐かしさのあまり顔が綻ぶ。あの頃より大人になっているけれど変わらない顔立ち。雰囲気。あの日の記憶の中の彼女のままだった。

「知り合い?」
「あ、同級生です。小中の」
「へぇ。なら大丈夫だね。保志部長から教育係を探してって言われたからさ。君、教えるの上手だからって思ってね。あ、噂をすれば――部長!保志部長!」

呼び止められたのは長身の女性。若い見た目をしているが40歳を超えている。
部長職でこの若さ。しかも女性だ。皆の憧れの部長。うん、輝いている。

「お疲れ様です。どうなさいました?」
「教育係を菖蒲さんに頼みました。大丈夫でしょうか?」
「ああ。やっぱり菖蒲さんですよね。わかりました」

部長は優しい声音で頷いた。
そして、グレー色に近い瞳を彼女、柊 渡里(ヒイラギ ワタリ)に向ける。
柊さんは軽く会釈をした。

「お疲れ様。受け入れの研修は終わってるから基本は分かってると思うけど、分からないことがあったら菖蒲さんを経由してね。色んな人に聞くよりはその方が確実だからね。菖蒲さんも柊さんのこと頼んだよ」
「わかりました」
「はい」

部長はニコッと笑って主任に向き直る。

「なにかあったら私の方に連絡をください」
「わかりました。お忙しいところありがとうございます」
「こちらこそ。それでは」

部長は颯爽と執務机に向かった。主任は私達に向き直ると腰に手を当てる。

「と言うわけで、菖蒲さんの役割は教育係っていうより補佐って感じかな。まあ、同級生ならやりやすいと思うから。それじゃ、後はよろしくね」

主任もそれだけ言うとその場を後にした。私は柊さんに向き直る。
相変わらず綺麗な顔をしていた。あの頃にかけていなかった眼鏡が良く似合っている。

「ほんと、久しぶり」
「そう、ですね?」
「何で敬語で疑問形?」

思わず笑うと彼女も苦笑いをして、眼鏡を押し上げた。そんな仕草もいちいち綺麗。

「一応、先輩だから」
「そんなの気にしないで良いのに」
「―…ありがと。私も、菖蒲さんで良かったよ。やっぱり知ってる人がいると心強いし」

そういって優しく笑った彼女。その輝きと甘い口調はあの頃と変わらない。




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