□臆病者*理由付けの朝
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「……………眠、い………」









臆病者*理由付けの朝









「ん……」

大きなベッドで真っ白なシーツが波打ち、無造作に黒髪が広がっている。

ベッドには窓からの日差しが当たり、眠るジョン・マンドレイクを照らした。

その光が眩しかったのか、小さく呻いて寝返りを打った。




「オイ」

部屋を開けると案の定小僧は寝こけていた。

俺は溜め息をついて開け放したドアの縁に背を預けた。


「オイ、起きろ」

返事もせず寝る体制に入る小僧に声をかけた。



「………………………」


やはり返事がない。
ここのところ毎朝この繰り返し。



今回の召喚理由は小僧の仕事中の護衛だが、身の回りの世話なんぞも命令されている。
それでこの様だ。


当然寝る暇も無い睡眠不足のジョン・マンドレイクを起こすのは俺の役割とされた。
命令と言われればどうしようもない。


睡眠時間1〜2時間の小僧を起こすのは至難のわざだ。
なかなか起きない上に二度寝、三度寝をしようとする。


小僧もまだまだ『小僧』ということだ。



仕様がない。




「オイ、小僧」

先程より声を張って言うと、小僧は身じろぎをしてまた小さく呻いた。


二度寝する気か、この餓鬼。


温和なこの俺ですら少し、いや結構。
腹が立ってきた。

俺はシーツをひっぺがしてやろうと思ってベッドサイドに立った。

しかし、いざシーツを捲ろうと手を伸ばした時思わず手が止まってしまった。




ふと顔を見たのがいけなかったのだ。






そこには普段大人びた表情を貼り付けたものではなく全く別の顔をしていた。

普段俺が小僧というように、こいつはまだ十数年しか生きていないただの子供なのだ。
腹立たしい程の達者な口に、深く広い知識、そして出世への執心。これらだけを考えると何処ぞの偏屈爺の魔術師と同じだ。


しかし違う。

言う事、為す事、肩肘張っている分忘れていた。



ベッドのナサニエルは既に小さな寝息を立てている。二度寝決定か。





そこにあるのは、ただの小さな子供の寝顔。




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