Baby,It's you.

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 隣の高瀬さんの意識を感じながら、教壇を見つめます。



 いえ、正確には、見つめるふり。



 だって、さっきから、高瀬さんの意識を受信しまくっちゃっているんです。視線ではなく、意識。こちらを決して振り返らない高瀬さんが、明らかな警戒心を私に向けています。



 秋元先生は、あれから五分ほどで教壇から降りてしまわれました。


 今は女の子の生徒が二人、教室の後ろに向かってなにかを説明しています。そうすることによって、声を教室全体に響かせているようです。


 黒板には、盟王祭と大きな三文字。それから改行して、クラス展示とクラス発表と書かれています。


 どうやら、盟王祭というのは学校のイベントのようです。生徒は恐らく強制参加。その日は授業をしないで、食物のお店を出したり、クラスで決めたテーマの出し物をしたり。昔、姉さまたちがお話していた、お祭りの縮小版のようなもののようです。


 あ、だから、盟王“祭”。


 うわぁ、楽しそう。


 どうしよう、なんという、ラッキー。


 初めて来た人間界で、こんな楽しそうなことに出会えるなんて。



「クラス発表劇の練習時間は放課後とここに書いた時間ですので、部活がある人は、あとで私に言ってくださいねー」



「ふくかいちょー、オレ、試合近いんすけどー」


「あ、と、で、つってんでしょ」



 茶化すように手を挙げた男の子に、教卓の女の子が声を低くして言いました。そのタイミングと仕草がコミカルで、思わず笑ってしまいます。


 それは私だけではなかったようで、一瞬、クラスのみんなに波紋のような笑いが広がりました。


 今まで不機嫌そうだった高瀬さんも、ほら、口角があがってる。



「せんせー、今日、これから教室使っていーい?」



“ふくかいちょう”と呼ばれた女の子が、秋元先生を振り返りました。



 秋元先生は右手を振りながら、「だめだめ」



「明日は、夏休み明けの学力考査じゃない。あなたたちが良くても、テスト前に文化祭準備すると私が叱られちゃうわよ」


 ゆっくりと、しかしきっぱりと秋元先生は拒絶の意を示します。


“ふくかいちょう”さんは、不機嫌を表情に出して、「なんだー、先生のけち」と不満を漏らします。



 不機嫌と言っても、高瀬さんの近寄りがたい表情ではなくて、唇を突き出して不機嫌を表現しているだけです。とても、好感が持てる表情です。


「じゃー、H.R.終わりー。みんなー、ちゃんと勉強しないと、秋元先生に怒られるらしいよー」


「‥‥勝手に仕切らないでもらえるかしら」



 ふんわり笑う秋元先生は、右手を握って、怒っていることをアピール。“ふくかいちょう”さんは声をあげて笑っているので、効果はなかったようです。



「あ、でも、勉強しないと怒るのは、本当だから」





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