Baby,It's you.

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 蔵馬さまの後ろを追いながら、学校内の廊下を歩きます。



 学校の、各部屋の扉には、上方に札が掛かっています。どうやら、そのお部屋の目的を示しているようです。



 階段を二つ通り過ぎて、廊下の一番奥の扉の前で制止。



 扉の上方には、“職員室”の三文字。




 蔵馬さまがその扉に手を掛けようとしたとき、私の背後から、男の人の声がしました。



「おぅ、南野か。久しぶりだな」



 私の後方から、頭上を飛び越えて、低い男の人の声。


 呼び掛けられた蔵馬さまが振り返ると、私の背後の人物に、翡翠の焦点を合わせました。



「先生、‥久しぶりって、夏休みだったんだから、当たり前でしょう」


「つっても、お前、学祭準備も全然来なかったろ。主役が来なくて、みんな困ってたぞ」



 立っていたのは、黒いジャージを来た背の高い先生。蔵馬さまよりも長身のその方は、持っていた薄い本で自分の肩を叩きました。



 蔵馬さまは、少し困ったような笑顔。一体、なにに対して困っていらっしゃるのでしょうか。



 長身の先生が、私を見ます。まるで、今、まさに発見したかのようです。



「お、この子が噂の転入生か」


『はじめまして、水乃森です。よろしくお願いします』



 話題が私に移ったことで、蔵馬さまが、一歩分身を退きます。半強制的に先生の目の前に立たされて、私は深々と頭を下げました。



「体育の松崎だ。俺は三年の担任だから、そんなに宜しくすることもないけどな」



 そう言って、歯を見せて笑う松崎先生。私は、その笑顔と、松崎という名前と、体育というフリーワードを、頭のなかでリンクさせました。記憶完了です。



「ところで、先生、噂というのは?」



「ん?なんだ、南野、知らないのか?」



 松崎先生が、意外そうなお顔をします。噂、については、私も確認したかった事項なので、口を挟まないことにしました。



「なんでも、ウチの編入試験を前代未聞の点数でパス。編入手続の際には、黒塗りのベンツで、黒スーツの男どもが同伴。

 で、いざ転入日間近になって、帰省先のお家騒動に巻き込まれて、意識不明の重体になるほどの怪我で入院。

 入院先すら不明で、書類上は盟王に在籍している筈なのに、誰も姿を見たことがない、美少女転入生、という話だぞ」



『なるほど、“御家騒動”と最後の一言以外は、嘘ではありませんね』



「黒塗りのベンツで黒スーツがどうは‥‥いえ、付き添いだったのか、紗々」



『温子さんが、最初は舐められたら終わりだと仰ったので。なにが終わるのかは、聞けませんでしたが』




 額の辺りに指先を当てて、溜息を吐く蔵馬さま。掌が陰になって、表情はよく分かりません。



 ええ、でも、きっと、笑ってはいらっしゃいませんけれど。




「紗々」



『はい』



「帰りに、話が‥」



『もう、帰りの話ですか?始業チャイムも、まだなのに』






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