seven-TH-heaven

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 セントラルガーデンタワー。


 63階建てのそのビルは、中に大型ショッピングセンター、オフィス、宿泊施設を有し、広大な敷地面積は、中央区の半分近い土地を占めている。


 つまり、中央区の半分近い土地が瓦礫の山と化したということだ。


 運びだされる死体は、殆どが警備員の制服か、黒のスーツを着ている。


ラッテル氏の所縁の者、もしくは、遺産の下見のために、宿泊していたマフィアの護衛だ。


 同情はしない。


 むしろ、彼らは死ぬのが仕事のようなものだ。


 ファーストは空を見上げた。誰にも聞こえないように「お疲れさま」と呟く。まだ、空は暗い色をしていた。



 蜘蛛が撤退した後、ファーストが生命維持ぎりぎりまで消費したオーラを回復するより早く、現場処理班により、チーム“ハウンド”は回収された。


 本来の対応であれば、任務に失敗した人間は、抹殺、隠蔽するのが現場処理班の仕事である。


 しかし、今回は救護班も同伴していた。


 連戦か。


 ファーストは溜息を吐いた。


 早急に怪我を治し、次の任務に就けということだ。


“ハウンド”は、ナベリウスが所有する最大火力。


 棄てるのなら、“ハウンド”以上の国家機密を隠蔽してから、ということだ。


 未だ手足に違和感の残るファーストは、生存者を見回しながら、意識的に口角を吊り上げた。



 生存者は、自分を含め、三人。セブンスは除いて。


“ハウンド”に、欠員が二人出たということだ。


 その上、セブンスまで攫われた。




 主任、怒るだろうなー。



 タカツキの怒る顔を想像して、ファーストは声を潜めて笑った。今度は、無意識だった。



 セブンスは、タカツキのお気に入りだ。



“ハウンド”史上、最強の女、ゼロスの娘。タカツキの恋人だった女だ。



 そして、ファーストの親友でも、あった。




 懐かしいなー。



 昔を思い出すなんて、珍しい。感傷こそ、理解しがたい感情だった。


 歳だろうか、そう思って、笑う。自嘲した。




「ファースト、治療を‥‥」


 救護班の女が、ファーストに駆け寄る。こんな時、最年長で、“ハウンド”創設者の一人でもあるファーストは、最優先された。



 救護班は念能力者で構成されている。


彼女も、回復系の能力を有する念能力者だということだ。



 ファーストは少し考えて「あー。私はあとで良いよー。」と、手を振った。プロテクトスーツは、脱ぐのが面倒なのだ。



「私は、少し腕と肋骨と鎖骨を折っただけだからさ。


 それより、フィフス見てやって。

あいつ、今は元気だけど、全身ぼっきぼきだよー」



 少し離れた所で、大声を上げるフィフスを指差す。


戦闘の興奮状態から冷めないらしい。


フィフスにはよくある事態なのだが、救護班の女が青ざめるのをファーストは見逃さなかった。



 無理もない、とファーストは思う。


 折れた脚で無理矢理立ち上がり雄叫びを上げるフィフスは、まるで、理性から解放された獣だ。


 チーム“ガンドッグ”の誰かに、麻酔銃で狙撃して貰った方が良いかも知れないと、ファーストは考えた。


「まあ、頑張ってー。

 仕事でしょ」



 救護班の女の肩を軽く叩きウィンクしてみせるが、そんなものは何の気休めにもならないことは理解している。



 肩を落としてフィフスの方に向かう女を見送り、ファーストは背後に注意を向けた。



「で、そっちのお嬢さんは、何か用かなー」



 笑ったまま、振り替える。


 同じスーツを来た女が立っていた。ゼクスだ。


 両腕が力なく垂れて、アンバランスに太い。完璧に折れている。


 任務前に飲んだ薬でもっているようなものだ。顔色もおかしい。本来ならば、立つことなど出来ないだろう。


「あの‥‥」


 ゼクスが声を掛けた。声よりも、空気が漏れるような音の方が目立つ。


「なに」
抑揚もなく答える。ゼクスが震えているのは、気が付いていた。


「負けたの‥‥ですか。私たちは」


「そうよ、任務失敗」


 現実を述べた。


 言われなくても知っていそうなものだが、言われなくては納得出来ない事実もある。



「あの」


「なに」


「セカンドが死にました」


「そうね。


 フォースも死んで、セブンスは攫われたわ」



「どうして、私は生きているのでしょうか」



 ゼクスは動かない。足が竦んでいるのかも知れない。


 ファーストが短く息を吐き出す。肋骨が軋む。薬が切れてきたのだ。


「どうして、なんて、蜘蛛の気紛れに、理由なんてないでしょう?」


 ゼクスの瞳が大きく開かれる。


 ただでさえ顔色が悪いのに、更に表情がなくなった。


「気紛れ?」


「そ、よ。

 少なくとも私は、100パーセント、あの男の気紛れで、生き残ったわ」



 ファーストは笑わない。


 人前で、こんなにも長時間笑わないのは、久し振りだった。


任務中も笑顔を心掛けているファーストだ。


 理由は、ない。


 気紛れだ。


 だから気紛れに、ファーストは頬の筋肉を上げ、目を細める。


「さあ、事実確認はそのくらいでいーじゃん。


 そんなことより、さっさと、その腕治して貰いなさい。そんで、出来れば寝ておきなさい。


 多分、すぐに、次の任務が下ると思うから」



「次の任務?」


 問い掛けるゼクスに、ファースト「そう」と頷いた。


 視界の端が明るくなる。


そろそろ、夜が明ける。


 身体に痛みが戻ってきた。


 ファーストは口を開く。

 次の任務は、


「セブンスの奪還」




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