seven-TH-heaven

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『チーム“ハウンド”、ナンバーファースト他二名、配置完了しました』



 車内に機械的な音声が反響する。鍛えられた聴覚には、まさに不愉快なものだった。



「まあったく、ご苦労なこった。

 毎回毎回、こんな冷蔵車みたいなトラックでよ。

 俺たちは冷凍食品かっつーの」



 分厚い壁に凭れて座るセブンスの横で、フィフスが呟いた。


 フィフスは立ち上がり、会社から支給された黒い革製のロングコートを脱ぐ。

長身の彼には、この環境は窮屈そうだ。



「仕方がないよー。

 この中の誰か一人でも裏切って暴走したら、地図が変わっちゃうもん。


 お給料も貰ってない、衣食住の補償だけで最前線に立ってる私たちじゃあ、信用がないってことだねー」



 セブンスの正面の壁に凭れて、ファーストがにっこりとフィフスを諭す。



思春期を迎えた子どもかと思うくらい小柄で華奢な女性だが、今回の作戦に参加する人間のなかでは、最年長だ。



「はっ。

 暴走なんかするかよ。

 ハンターでもねぇのに何人殺したって罪になんねえなんて、ここくらいなもんだ」



 フィフスのコートが床面に脱ぎ捨てられる。


 金具が擦れる音と質量を持った鈍い音がした。



 乱暴に投げ捨てられたコートを見て、ファーストが溜息を吐く。



「作戦中なら、でしょー。

 まぁ、テロリスト殲滅が私たちの仕事だからねー。
 民間人に気を遣って獲物を逃したら、治安維持に関わるし」



「で、今回の獲物はどんなんだ?」



 フィフスの視線がセブンスに向けられる。


 セブンスに今回の作戦内容の説明を要求ているのだ。



 新しいアーマードスーツの関節部の具合を確かめていたセブンスは、アーム部分に取り付けられたデジタル表示を見た。



『今回の目標は、構成員人十人前後のグループのようですね。


 本日二四○○より中央区セントラルガーデンタワーを占拠。

 当時タワー内には会社員と宿泊客等で約一万人の民間人が居たと思われますが、今のところ生存者はなし。


 通報者はタワーの警備員。タワー内に設置されたカメラ映像を、別の棟で確認する警備システムだったようです。


 犯行グループによる声明、要求はなし。


 本日○二○○までに犯人からの反応がなければ、作戦を開始します』



 出発前のブリーフィングでの情報を、掻い摘んで説明する。


 フィフスが会議室に居た記憶が、セブンスにはなかった。



「セントラルガーデンタワーかぁ。でけぇんだよなぁ、あそこ。

 何階建てだっけか?」



「63階建てだよー。

 私たちは一階から、屋上からはセカンドとフォースとゼクスが突入するんだよ。


 上の方のホテルは面倒くさいから、向こうに任せれば良いよー。


 フィフスはいい加減ブリーフィングに出た方が良いよね」


「うるせーよ。

 そもそも俺らに作戦なんて要るのかよ。

 チームワークもへったくれもねーじゃねーか」



 低音で呟くフィフスに、ファーストが高い音域で笑い声をあげる。


 セブンスが今まで出会った大人の中で、誰よりも高い声を持つのがファーストだ。



「まぁねぇ。

 私たちが全員で出撃するなんて、初めてじゃない?
 十人くらいの制圧だったら、いつも単独で出るもんねー」



「てことは、使うのか?」


「使うみたいだよー」




 目的語のないフィフスの言葉に、ファーストが語尾を延ばす独特の口調で肯定する。



 その目的語は、セブンスにも推測出来た。



 念能力のことだ。



 セブンスたちは、念能力を行使する人間、念能力者が関与する任務には、常に三人以上で配備される。



対念能力者テロリスト制圧部隊、強襲チーム“ハウンド”は、非念能力者で構成されている為だ。




「念能力かー。

 セブンスは、局長から何か聞いてない?」


『いえ、何も』


「そっかー。何なんだろうね、あれ。

 私たちは、念能力のことを調べるのは禁止されてるからねー」



「まぁ、いいさ。

 今日こそ念能力の正体を吐かせてやる」



 フィフスが口角を上げる。


難しい任務であるほど、彼はこの表情をする。



「いつも聞く前に殺しちゃうもんねー。

 フィフス、頑張って殺さないようにしなきゃねー」


「まぁ、そこがネックだな」



 緊張など感じられない会話に、セブンスは肩の力を抜いて深く呼吸をした。


 チームで配属される場合は、毎回このメンバーだ。


 問題はない。



 作戦開始まで、あと30分。
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