H×H
□不機嫌なholiday
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窓から差し込む光に刺激されて、瞼を開けた。
アラームの音に起こされない朝というのは、なんて素晴らしいのだろう。そう考えながら、私は枕元の時計に手を伸ばす。
私が動いた気配で、隣のクラピカの覚醒を促してしまったらしい。さらっさらの金髪を掻き上げながら、少し擦れたテノールで言った。
「いま、なん時だ」
『八時半。
もう少し、寝てて良いよ。仕事詰めで、寝ていなかったんでしょう?』
寝癖さえ付いていない、クラピカの髪を撫でる。
瞼を開けようと努力しているクラピカは、ちょっと珍しい。茶色い大きな瞳を見てみたいと思ってしまうけれど、それ以上に、クラピカには休んでいて欲しかった。
『ほら、寝てなって』
努めて優しくクラピカの髪を撫でると、少しだけ目を開けたクラピカが、私を引き寄せる。
裸の胸に抱き締められて、思わずそれに委ねてしまいたくなる。睡眠の余韻の高い体温が、余りにも心地好かった。
でも、それに身を任せてしまったらおしまいだ。今日の私の予定が、すべて崩れてしまう。
『クラピカ、駄目。私は起きるんだってば』
「ん‥レインも、寝ていろ」
『私は、寝不足じゃないもん』
「昨夜は、無理をさせたからな」
そう言われると、なにも言えなくなってしまう。
昨夜の一時過ぎに帰ってきたクラピカは、激しく、激しく、私を求めた。少しだけ血の匂いがしたから、仕事のために、戦って、帰ってきたのだと思う。感情を鎮めるために抱かれるのは、初めてではないけれど、その後で、後悔するように抱き締められると、少し、つらい。
いつもより体温の高いクラピカが、私を抱き締めたまま、規則的な呼吸を始める。それを感じて、私は慌て言った。
『だめだめっ。今日は、洗濯とか掃除とか、忙しいんだってばっ』
強靭な腕力で羽交い締めにされながらも、抵抗を試みると、不機嫌な声で「うるさい」
「どうせ、すぐに眠くなる」
『ならないよ。ばっちり、目、覚めちゃったもん』
「そうか、なら、仕方がないな」
クラピカの声で、諦めの言葉が出ると、私は安心して力を抜いた。でも、拘束は解かれることなく、逆に、背中をシーツに押し付けられた。
クラピカは、私に覆い被さるようにして、相変わらず、私を抱き締めている。
『クラピカ‥‥?っちょっ‥‥‥ゃっ‥』
クラピカの意図が分からなくて、不安になる私は、首筋に感じたぬるりとした感触に、それどころではなくなってしまった。
クラピカの舌は、そのまま、私の首を這い上がり、耳朶を優しく食む。
『ふやっ‥ぁ‥‥なにして‥‥』
「レインは、行為の後は、すぐに眠くなるだろう」
そう。クラピカに抱かれた後は、なにもかも満たされてしまって、すごく幸せな気分で眠れる。
クラピカの言ってることは、間違いないんだ。
でも、
だからといって、
『ぁ、‥だからって、こんな‥‥ん、‥朝っぱらからぁっ!』
私の耳殻の食感を、存分に楽しんでいるクラピカが、今度は私の胸に手を伸ばす。
肩を震わせて、クラピカを見ると、私を見下ろす、綺麗な笑顔。
「時間は関係ない。私は、いつでも、レインを抱くことができるからな」
『な、‥なに言って‥‥ぁ、んっ!』
敏感な箇所を擦られて、私は、早くも息が上がる。もう、抗議の言葉なんか考えられなくて、せめてもの抵抗に、クラピカを思い切り睨んでやった。
クラピカは私の表情に、大きな瞳を更に大きくして見せる。それから、少し考えるように、私を見つめた。
「そうだな、レインが時間を弁えろと言うのなら、考慮しないこともない」
『本当っ?』
「ああ、だから、今回は‥‥」
クラピカはそこまで言うと、綺麗な唇を歪めて、笑った。
「三回で勘弁してやろう」
『‥‥‥』
窓から差し込む眩しい光。
カーテンの向こうに広がるのだろう青空に、思いを馳せて、私は諦めの溜息を吐くしかなかった。
end