H×H
□秘密基地
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あ、今、光った?
リビングの窓。その向こう側に広がる雲の一部が、一瞬だけ光を帯びた。
もう、当分は光らない筈のその部分を見つめて、身体が強ばる。
ううう、来るぞ、来るぞ。
頭に被ったバスタオルを握り締めて、次に訪れるだろう空気の振動に備える。
頭のなかで8秒数えたあと、どろどろと、マーチングバンドの大きな太鼓を震わせたような音。
あれが、マーチングバンドの演奏だったら、とそんな願望。
でも、ああ、良かった、まだ、遠い。
両手の握力を緩めて、肩を弛緩させる。
早く、部屋に戻ろう。
戻らなきゃ。
こんな時は、毛布に包まってやり過ごすに限るんだから。
情けないけれど、それしか方法はないんだから。
自室の扉を開くと同時に、また、一瞬だけ、明るくなる。
あああ、いやだ、いやだ。
部屋に入って、背中で扉を閉めると同時に、凄い音。
大太鼓を叩くどころじゃない。大太鼓を空から落としたような、ひどい音。
あまりにびっくりして、叫びそうになる口を、両手で抑える。
首を引っ込めて、肩を強ばらせて。
今回は、近かった、よね。かなり。
音も、大きかったし。
なんてことだろう。本当に、最悪と極悪が重なってしまった。
どうして、こんな時にキルアはいないのだろう。
自分の運のなさを自覚しながら、ベッドに移動する。昨夜使ったままの毛布を乱暴に引っ掴み、蹲るように包まった。
うん、完璧。これで、良い。
頭から毛布を被って、幼い頃、秘密基地なんて言ってたな、なんて思い出す。
そのときは、一人じゃなかった筈。
お父さんに叱られると分かっていても、意味のない夜更かしに、いつも誰かを巻き添えにしていた。
誰だったかな。
懐かしいな。
記憶のなかを探っていると、カーテンの外がまた光る。
もう、いやだ、なんて心のなかで呟く前に、轟音が私の思考を掻き消した。
『‥‥ひぁっ』
唇から空気が漏れる。
指先が冷たい。緊張している証拠だ。さっき、シャワーを浴びたばかりなのに。
髪は、まだ濡れているけれど、もう、寝てしまおう、そう考えたとき、ベッドの上に置いた携帯が震えた。