H×H
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校門を出たところで、見知った後ろ姿を見つけた。
堅そうなツンツン頭に、キルアよりやや低めの背。
『ゴンくん』
名前を呼ぶと、ゆっくりと振り替える。
ちょっと驚いたような、大きな目が、なんとも可愛い。
「レインさん、こんにちは」
『こんにちは。今、帰り?』
惜しみない笑顔に、私も自然と口角が上がる。あの曲者のクラピカやキルアを丸め込んだのは、伊達じゃないと思った。
「うん。
あ、今日、キルア休みだったけど、どうしたの」
『あ、あー。
なんかね、熱っぽいって言ってたなー』
キラキラした瞳で見つめられ、真実が言えなくなる。大人になるって、こういうことを言うのかな。
こっそり溜息を吐くと、ゴンくんが眉毛を下げた表情で「お見舞いに行ってもいい?」と首を傾げた。
まいったなあ。どうやら、本気でキルアの心配をしているらしい。
『うーん』
キルアのことだから、ゴンくんが来たら、風邪の演技くらいするだろうけど。
でも、良い機会かも知れない。
キルアは、もう少し、自分を心配してくれる人もいるんだってこと、自覚するべきだ。
『うん、そうだね。お見舞いしてあげて』
そう言うと、ゴンくんは嬉しそうにいっぱい頷いた。良い子だなあ、本当に。
道中話し合って、お土産を買って帰ることにした。
『なにが良いかな。
ケーキ、‥うーん、プリンも良いねえ』
「レインさん、もしかして、自分が食べたいもの言ってる?」
脳内の美味しいスイーツ店マップを検索していると、ゴンくんがまん丸な目で見上げてくる。ばれたか。
まあ、仕方がないよ。甘いものを考えるだけで、気分がふわふわしちゃうんだから。それが楽しそうに見えたに違いない。
だいたい、本来なら、仮病人にお土産なんて買わないんだから、嗜好は私寄りでも文句なんて言わせないし。
でも、キルアが仮病なんてことは、まだまだ最重要機密事項だ。
私は、ゴンくんには舌を出して誤魔化しておくことにした。
『あ、そうそう』
私の気分で最近出来たケーキ屋に決定したところで、おもむろに話題を切り出してみる。出来るだけ、何でもないことのように心掛けて。
『さっき、イルミに会ったよ』
私の左を歩くゴンくんの気配が、少しだけ重くなる。
無理もないか。
私もゴンくんも、イルミには良い思い出なんて、ない。
「なんで」
『さあ。仕事関係だと思うな。予想だけど。
キルアを取り戻しに来たわけでは、ないみたいだよ。
今日、あいつが休みなのは、まったくの偶然だから』
頬の筋肉が強張ったゴンくんの顔を覗き込んで、私は笑顔を作った。
『ついでに言うと、今、私とゴンくんが一緒にいるのも、偶然』
そう。
ゴンくんがイルミの存在を警戒したのは、この状況が似ているから。
『なんか、懐かしいね』
「あの時も、キルアにお土産買って帰ったんだよね」
『そ。あいつ、まだ、学校通ってなかったからね』
なんて、ゴンくんと共有する記憶を辿ってみる。
ケーキ屋はすぐそこだけど。
少しだけ、思い出話なんてしてみようか。