H×H

□成長期
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 午前七時。


 私の一日の始まり。



「おはよ〜、レイン」

『おはよう、今日は早いんだね』



 いつもは寝坊常習者のキルアが、私が起きたら既にシャワーを浴び終えてたなんて。


 ああ、今日は、雨か台風か。


 思わずカーテンの向こうを確認したけど、爽やかな朝の日射しが角膜を刺激しただけだった。



『おかしいな』


「なにが」


『キルアが早起きなんて、台風でも来てるのかな、なんて』


「なに、それ」



 ダイニングの椅子に腰掛けるキルアの前に、コップ一杯の牛乳を置く。


 コップが割れそうな勢いで飲み干して、キルアはテーブルに突っ伏した。 



『どうしたの』


「眠い」


『寝不足?珍しい』


「関節、痛くて」



 関節が、痛い?


 突っ伏した体勢で沈黙するキルアに、そういえば、違和感を覚える。


『キルア、ちょっと、立ってみて』


「なんで」


『いいから』



 なにが『いいから』なのかは分からないけど、取り敢えず、渋るキルアを椅子から立たせる。


 キルアの眠たそうな顔が、一週間前よりも明らかに近くにあった。



『キルア、背、伸びた?』


「うん、多分」



 ああ、やっぱり。


 いつもは下だった筈の目線が、今は同じくらいだもんね。



『成長期かぁ』


「そうなの?」


『そうだよ。良いなあ、男の子は。

 まだまだ、伸びそうだね』



 無理矢理キルアと掌を合わせてみると、やっぱり、キルアの手は、かなり大きい。


 幼少期から身体を鍛えるのは、成長の妨げになるって言うけれど、キルアの成長は順調のようだ。



「まだ、伸びる?」


『うん。だって、関節、痛いんでしょう?

 成長痛よね、それ』



 言いながら、キルアの頭をタオルで拭いてやる。


 こんなことが出来るのも、あと少しかな、なんて、ちょっと感慨深い。



「レオリオ、越えれる?」


『さあ、それは、分からないなあ』


 レオリオって、身長どれだけあったっけ。


 殆ど真上を見上げなきゃならない目線を思い出して、私は苦笑した。


 そんなキルアは、想像がつかないな。



「じゃあ、クラピカは?」


『ん?』


「クラピカは、越えれるかな」



 独り言のようなキルアの呟きに、今度はクラピカの目線を思い出す。


 クラピカは、うん、それなら、ありそう。



『そうだね。あと少しだね』


「じゃあさ、クラピカを越えたら、俺に乗り換える?」


『え?』


「俺にしてくれる?」



 キルアの頭を拭いていた両手首が掴まれる。顔が近くなった分、この体勢は刺激が強い。


 顔を覗き込まれると、簡単にキス出来てしまいそうだ。


 でもね、


『キルア、私、年上だよ?』


「関係ないよ」


『今は関係なくても、あと五年もしたら、もっと若い子の方が良くなるよ』



 若い女の方に目移りするのは、男の本能。繁殖欲から来る欲求だと、以前、誰かが言っていた。


 そりゃあね、今は、キルアだって、若い。若いと言うより、幼い。だから、自分よりも年下の女の子なんて、想像もつかないのだろうけど。



「なんねーよ。俺は、レインが良い」


『どうだか。

 先のことなんて、分からないよ』



 にっこりと、お姉さんぶってみる。


 先のことなんて、分からない。


 悲しいけど、そんなもんだ。現実なんて。



「じゃあ、五年経っても、俺がまだレインが好きで、レインがまだ独り身だったら、俺と結婚してよ」



『え。うーん、それは、どうだろう』



 五年越しの約束。


 そんなの、憶えていられるかどうか。


 いや、私は問題ないんだ。問題なのは、キルア。



『五年だよ。憶えて、いられる?』


「憶えてる。ぜってー忘れねー」



「だから」と、抱き締められる。両腕が、一週間前よりも僅かに長い。


 肩とか、腰とか、まだまだ華奢な箇所があって、成長期特有のアンバランスに、何故かドキドキした。



 五年か。


 どうなるのかな。


 キルアは、もっと、背が伸びて、男の人っぽくなって。



 私は、何をしているのかな。


 誰が、好きなのかな。



 なにもかも、不確定だ。


 ああ、


 そうか。


 だからこその、約束か。



『うん。じゃあ、約束ね』



 抱き締め返してキルアの頭を撫でると、頬にキスをされた。









「どうしたのだ、レイン?

 今日は、やけに機嫌が良いな」


『ん。ちょっと、前途有望な殿方に、プロポーズされちゃって』


「ほぉ?」


『そう』


「レイン」


『なあに?』


「キルアに伝えておけ。

 私は、いつでも受けて立つとな」


『それは、伝えにくいなあ』









end

 

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