H×H

□no Border
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 自室のベッドの上で、クラピカは目を覚ました。


 枕元の時計を見る。午前四時。


 問題はなかった。三時間程前に、就寝するためにベッドに入ったのは覚えている。


 久々の睡眠だった。


 最近、仕事が忙しくて、60分以上連続した睡眠を摂っていなかった。



 それは、つまり、夢を見たのも、久々だということ。



 嫌な夢だった。


 夢だと認識しても、心拍数は増加したままだ。



 ガラスの向こう。どんなに手を伸ばしても、届かなかった。




「レイン」




 目を瞑ったまま名前を呼んでみる。殆ど、無意識。



 無意識だったから、『ん、なに?』と少し眠気を含んだ返事に、クラピカは驚いた。


 自分の胸の辺りから見上げる小さな顔を、クラピカは瞳を大きく開いて見つめる。



『なに、その顔?』



 レインはシーツから這い出て、俯せの体勢のまま伸びをする。



 肩から背中へのラインが、ベッド脇のランプの僅かな光に照らされた。



「いつ、来たのだ?」



 ゆっくりと、クラピカが聞く。


 レインは、欠伸の途中で、息を吐きだしながら口角を上げた。



『最初からいたよ。


 クラピカ、会話したのも忘れたの?』



 レインは『寝呆けてるの?』と笑いながら、着ているキャミソールの肩紐を掛け直した。



「ああ、そうだったな。

‥‥すまない」



 絞り込むように息を吐いて、クラピカは謝るが、実際はレインと会話をしたことなど、思い出せなかった。



 レインも、それを分かっていたし、だからこそ、ただ笑って溜息を吐くだけだ。



『夢でも、見た?

 顔色、悪いよ』



 レインは少し身体を起して、クラピカの額に触れた。


 貼りついた淡い色の髪が除けられて、クラピカは汗をかいていたことを自覚する。



「夢、か」



 ああ、見ていたな、と呟いて、クラピカは目を綴じた。



 レインは何も聞かない。聞かない方が良いと判断したためだ。


 しかし、瞼を綴じたクラピカの呼吸は浅く、眠りにつけそうにないことは、レインも理解していた。


 寝起き独特の、関節の連結が鈍い感覚を頭の隅で確認ながら、レインは口角を上げて微笑む。



『クラピカ、散歩に行こうか』



「こんな時間に?」


 返ってきたクラピカの声は、予想通りにクリアだった。



『こんな時間だからだよ。

 気分転換になるよ』




 にっこりと言うレインは、既に立ち上がって上着を手に取っている。



 自分の意見を聞く気はないのかと溜息を吐いて、クラピカは寝汗で湿ったシャツを脱ぎ捨てた。











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