H×H

□sweet smelling cat
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『キルア〜。

 シャワー空いたよー』


 夕飯を終えた私は、深夜に再放送するドラマに備えて、早めにシャワーを浴びた。


 先週の話では、ヒロインの死んだ筈の婚約者が現れて、目が離せないのだ。


 その上、ヒロインの唯一の味方である母親が事故に遭ったとか。



 まあ、今日は見所満載で、私は夕方からわくわくしていた。



「レイン〜」



 リビングでキルアが食べ散らかしたお菓子を片付けていると、散らかした本人が廊下に立っていた。


 バスタオルを持って、傷だらけの胸は、裸だった。


 部屋から脱いで行ったのだろう。せっかちなやつ。



『どうしたの、そんな格好で』



「シャンプー、ないんだけど」



 ああ、そう言えば。


 私が使ったときは、もうギリギリだったな。詰め替えなきゃとは、思ってたんだけど、忘れていた。



『ごめん、キルア。


 詰替え用が棚に入ってるから、詰め替えておいてくれる?』



「その棚が空っぽだから、言ってるんだけど」



 私は首を45度傾けて『ん?』と呟いた。棚が、空っぽ?


 シャンプー等の消耗品は、パウダールームの棚の中にまとめて収納してある。


 勿論、キルアだって知っている情報だ。



『それは、本当?』


 私は最近の買い物の記憶を思い出しながら、口角をあげて聞いた。


 うん、シャンプーを買った記憶は、ないなあ。



「嘘なら、もっとマシな嘘つくよ、俺」


 表情を変えずに、キルアが宣言する。嘘に、マシも何も、あるもんか。



 ああ、もう。しまったなあ。


 私は肩の力を抜いて、立ち上がる。


『今、私の旅行用の持ってくるから、ちょっと待っててー』


「いやだ」



 出たよ。わがままネコめ。


『ちょっとだから。一分もかからない』


「そーじゃなくて、旅行用がやだ。


 いつものやつ、買ってきて」



 なんだと?


 自室に向かう私の足に、強制停止をかける。



 首だけ振り返り、わがままネコの顔を見た。



『もう、外、真暗なんだけど』


「ハンター目指す人間が、何言ってんの。

 まだ、店は開いてるだろ」


『自分が行こうって気は?』


「ない。もう、服脱いじゃったし」


 背中から脱力する私に「行って来て」とキルアが言う。



 そりゃあ、さくらんぼの香りのあのシャンプーは、私もキルアもお気に入りだけどさ。



 まあ、買い忘れた私も悪いしね。



 お財布の残金を確かめて、頭のなかで、簡単な計算。うん、大丈夫。



「あ、ついでに、チョコロボくんも買ってきて」



『え?』


「どーせ、ドラマ見ながら食べるお菓子も、買ってくるんでしょ?」



 あら、バレバレですか。



 相変らず勘が鋭いキルアに、苦笑する。



 エレベーターを使うか、廊下から飛び降りるか迷いながらサンダルを履いていると、後ろからキルアがにっこりと話掛けてくる。



「大急ぎでね。俺、風邪ひいちゃうから」


 よく言うなあ。ウチに来てから、一度も風邪なんかひいたことないくせに。



 私はご要望に応えるべく、廊下の手摺りを乗り越えた。








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