H×H
□2
2ページ/5ページ
授業終了を報せるチャイムは、神の御恵みに等しいと思う。
神の子の再来かと思っちゃうよね。
それがお昼休みのチャイムだったりしたら、もう。
なにが悲しくて、空きっ腹抱えて小テストに挑まなきゃならんのか。
広めの教室の前と後ろ、テスト用紙を回しながら、ポンズが「どうだった?」と聞いてくる。
テストの出来のことかと推測して、『いつも通りかな』と苦笑い。
いかんいかん。今から腹拵えをするって言うのに、こんな沈んだ顔じゃあ、お弁当さまに向き合えないよ。
先生が教室を出ていくと同時に、教科書をしまい、お弁当を取り出す。
前の席のポンズは、椅子だけを反転させて、同じ机に可愛らしいお弁当バッグを置いた。
「レイン、何、その玉子焼き」
ポンズが私のお弁当を見て、低い声で言った。
うん、言われると思ったよ。
味を誤魔化すために、玉子も多くしんだよね。
『いやあ、朝っぱらからイタズラぼうずがね〜』
頬杖を突いて、溜息を吐く。
「ああ、キルアくん、だっけ?」
『そう。あの、イタズラねこ』
勿論、初等部でお昼ご飯を食べているだろうキルアのお弁当にも、同じ玉子焼きは入っている。
蓋を開けてびっくりすれば良いと思う。
「大丈夫なの?」
『なにが』
「ゾルディック家の家出少年なんか、匿っちゃって」
一口サイズのコロッケをフォークでつっつきながら、ポンズが口を尖らせる。
多少、発音しにくそうな喋り方は、私のことを心配してくれてる証拠だろう。
『大丈夫だよ。
キルアの実家の執事さんからも、宜しく頼まれてるし。
最近は、ちゃんと御飯も食べてくれるようになったしね』
キルアと出会った頃は、献立にそりゃあ気を遣ったもんだ。
個別の皿に盛られたものは、絶対に口を付けなかったし、盛り付けだって、キルアの目の前でしなきゃならなかった。
要するに、警戒されていた。
変わったよなあ。
スキンシップの賜物とも言える玉子焼きを咀嚼して、お茶の力を借りて嚥下した。
キルアとの生活が始まったのは、冬の、寒い寒い日だった。
その日は昼間から大雨で、傘なんか、意味ないんじゃないかってくらい。
そんな雨が、夜まで続いた。
夕方のバイトが、思いの外長引いてしまった私は、濡れるのも寒いのもうんざりで、ちょっと奥まった路地裏を急いでいた。
怖かったけどね。近道だったから。
日中お日さまで温められなかった地面は、私の体温を奪っていくようだ。
マンションの裏の、小さな十字路。ここを曲がれば、エントランス。
程よく緊張感が解けたところで、私の聴覚は、妙な音に反応してしまった。
空気を裂くような、一瞬の、音。
少し戻って、角を覗き込む。
表通りの灯りなんか、全く届かない、路地裏の奥の奥。
真暗で何も見えない筈なのに、血と雨でドロドロになって佇んでいたキルアだけは、何故か目についた。