H×H

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 予鈴が鳴り響く。


 阿呆みたいに広いこの学校の敷地全てに知らせるため、チャイムの音も、阿呆みたいに大きい。


 校舎裏の、グラウンドの隅。今は使われていないクラブハウス。老朽化していて、誰も近寄らない。


 うん、私は、好きだ。この感じ。


 私は、首をのばして、空を見上げた。


 この時期は、クラブハウス脇にある、学校一大きい桜が満開で、青空よりも桜が近い。


 勝手に持ってきた備品の机を並べて、演劇部から貰った使わないカーテンを敷いて、私の特等席。



 天気が良い。


 H.R.サボってしまおうか。



 そう考えて、もう一度、伸び。


 伸びた体勢から、頭をぶつけないように仰向けに寝転ぶ。



 閉じた瞼越しに、顔が陰るのを感じた。


 雲だろうかという考えを否定する。この影は、もっと近い。



 息が掛かるほどに。



「レイン」



 瞳を開ける。


 クラピカだ。


 淡い色の前髪が、頬に掛かりそうだった。


『クラピカ、近いよ、顔』

 キス出来そうだ。


 しないけど。



「ああ、すまない。

 レインの睫毛に花弁が付いていたのでな」


 顔が離れる。


 なんか偉そうな口調は、クラピカの癖。


 クラピカ以外の人間に、そんな風に話し掛けられたら、きっと、殴ってる。多分、確実に。



『で、何の用?』


「何の用じゃないだろう。

 予鈴が鳴ったというのに、ここで何をしている」


『うーん、サボろうか、迷ってたとこ』


「素直だな。生徒会長の前で」


『まあ、嘘ついたって、仕方ないし』


「そうか」



 クラピカが笑う。


 珍しいものを見た。


 台風でも来るかな、なんて考えてたら、両腕を拘束される。クラピカの手に絡まる鎖だ。


『何するの』


「連行する。

 新学期早々サボられたら、メンチ先生も可哀相だろう」


 可哀相って女かな、あれが。


 首を捻るが、クラピカはお構い無し。


『あー、もう。痛い痛い』



 腹筋を使って起き上がり、机から降りる。


 ここから急いだって、時間前に教室に行けるとは思えないけど。



「ほら、行くぞ」


 クラピカが鎖を引っ張る。


 これじゃあ、逮捕された殺人犯だ。



『クラピカぁ、引っ張られると、転びそうになるんだけど』



 そもそも、クラピカの念能力って、こんな使い方する為のものだったっけ。


 まぁ、いいか。本人が使っているのだし。



 春休みに買ったばかりのローファーは、まだ足に馴染んでいない。


 脱げないように気を付けながら、鎖に促されるまま、校舎に向かった。







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