H×H

□DEEP KISS!
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 まずは何から話せば良いのか、私も困っているのだけど。


 ああ、そう、その日はクラピカの誕生日だったの。これ、大事。それで、みんながお誕生日会を開いてくれてね。まあ、なんだかんだでお酒を飲む口実が欲しかっただけな気もするのだけれど。


 でね、自分の誕生日に予定を合わせられたら、クラピカも出席せざるを得ないでしょう?主賓なんだから。普段の飲み会とかはパスする人なんだけど、さすがにこの日はね。お仕事関係の人たちも来てくれたみたいだし、余計断れなくなっちゃったんじゃないかな。

 あ、私は行かなかったよ。クラピカに、来るなって言われちゃったの。寂しかったけど、ほら、私が居たら、皆に気を使わせちゃうじゃない?だから、まあ、そこはね、聞き分けておいたの。クラピカにも、皆にも、楽しんで欲しいしさ。


 それで、えっと、何時だったかな、クラピカから電話があったの。どうしたのかなー、なんて思いながら出たら、声はセンリツだったの。つまり、センリツがクラピカの携帯を使って、私に電話してきたのね。


『え、あれ、センリツ?どうしたの?』

「ああ、レイン、ごめんなさいね。今、大丈夫?」

『うん』

「あの、今から此方に来れないかしら。クラピカが、大分、その、飲まされちゃってね。迎えに来て欲しいのよ」

『え、迎えに?あれ、クラピカって寮‥‥あ、あー‥うん、分かったよ。とにかく、行けば良いんだね』

「ええ、お願い」


 おかしいな。今日の飲み会は、寮の食堂を借りた筈。二次会にでも繰り出したのだろうか。あの辺りは飲み屋さんが多いから、別に不思議じゃない。


 身支度を調えて、自宅を出たのが10分後。迎えに来て、と言われたのだから、車で行くべきなのかな。マンションの駐車場に降りながら、交通状況をチェックする。渋滞はなし。20分くらいで着くだろう。センリツの携帯電話に、到着予定時刻をメールしておいた。


 寮の駐車場には、殆ど車が停まっていない。車を持っている学生が居ないからだ。だいたいの人は、走行時の最高時速が車より速い。駐車場は緊急車両用のスペース確保か、規定の為に造られたのだろう。


 車をロックして、センリツに連絡を入れる。クラピカの携帯電話かセンリツの携帯電話にするか迷って、センリツの番号を選んだ。


「レイン?ああ、良かった。着いたのね?」

『う?うん。良かったって?えっと、食堂に行けば良い?』そう話ながら、私は既に玄関に入り、食堂に向かって廊下を歩いている。


「ああ、違うの。えっと、ごめんなさい、クラピカの部屋に行って貰えるかしら」

『クラピカの部屋?』迎えに来たのに?不思議な話だ。

「ええ、あ、ちょっと待って。私も行くわ」


 センリツは受話器から離れて誰かと話した後、「そこに居て」と言って通話を終了した。10秒後、廊下の向こうの扉を開けて、センリツが此方に向かって走って来た。


 センリツは私の目の前で立ち止まり、「ありがとう、来てくれて助かったわ」と言って笑った。苦笑いだった。「ごめんなさいね、こんな突然」


『それは別に良いんだけど、どうしたの?』


 今度はエレベーターホールに向かって歩きながら、センリツを見る。私が聞くと、センリツは困ったように口許を隠した。


「クラピカが酔っちゃって、その、ちょっとね、ほら、クラピカも腕が立つでしょう?」

『え、暴れたの?』

「暴れたと言うか、まあ、理由があるから、あれは仕方がなかったと言うか。お酒の所為で、力の加減が利かなかったみたい。キルアとレオリオが止めに入ってくれたから、大事にはならなかったのだけど」


 エレベーターは一階で待機していて、私たちは待たずに乗ることが出来た。狭い空間の中で、ちょっと声が小さくなる。


「貴女の噂をね、してたのよ」

『私の?』

「みんなも酔ってたから、悪のりしちゃったのね。それを、クラピカが聞いてしまって。だから、暴れたこと、叱らないであげてね」

『そっか、分かった』


 頷くと、到着を知らせる電子音が鳴った。扉がスライドする。廊下を進み、フロアの奥の扉をセンリツがノックした。


 扉を開けて、出迎えたのはレオリオだった。酩酊のクラピカを一人には出来なかったのだろう。レオリオは私の顔を見て、困ったように笑った。センリツの笑い方と同じだった。


 リビングのソファーに、クラピカが座っているのが見えた。顔を臥せていて、表情は見えない。ぴくりとも動かないので、寝ているのかも知れない。


 レオリオに促されて部屋に入ると、二人ともそのまま廊下に出て行ってしまう。擦れ違い様、レオリオに肩を二回叩かれた。お礼か、労いか、謝罪か、全ての意味を含んでいそうだ。


 オートロックなので、部屋はそのまま閉ざされてしまった。顔を伏せたまま動かないクラピカに近付く。隣に座ると、漸く私に気が付いたら。


「レイン?」酒気を含んだ吐息。いつもとイントネーションが違う。クラピカの声じゃないみたいだ。金色の髪から覗く瞳は、緋の色をしていた。


「(どこにいたんだ?)」


 クラピカが話す言葉は、公用語ではなかった。聞き慣れない響きに、一瞬身体が硬直する。すぐにそれがクルタ語と分かり、クラピカが相当酔っていることを知った。


「(オレから離れるな。レインはすぐにいなくなるからな)」

『うん』


 クラピカのお陰でクルタ語は聞き取ることは出来る。でも、喋ることはできないので、公用語で返事をして頷いた。


「(来い)」

『え‥きゃっ‥‥ 』


 腕を引っ張られ、抱きしめられる。アルコールの匂いが強くなった。


「(オレのものだ)」

『え、なに?』


 慣れない言語である上に、早口で、しかも呂律が回っていない。聞き取れなくて、クラピカを見上げて首を傾げると、熱いものが唇に触れた。


 二秒くらいして、キスをされているのだと理解する。


 クラピカの唇が、いつもより熱かった。


『んっ‥‥んっ‥!』


 唇を柔らかく啄まれて、舌でなぞられて、身体が震えた。クラピカが髪に指を差し入れて、私の項に触れた。『ぁっ‥‥んぅっ!』


 侵入する舌。お酒の匂いを纏って、私まで酔ってしまいそうだ。抱きしめられて、逃げることも出来ない。絡められて、呼吸も出来なくて、苦しくなってクラピカの肩を叩く。


「はっ‥ぁ‥‥レイン」


 一度唇を放して、潤んだ緋色を見詰めた。クラピカの胸にすがって、呼吸を調える。心臓がうるさい。痛いくらい。手も足も力が入らなくて、体温が上昇しているのが分かった。


『はぁっ‥は‥ん‥』


「レイン」


 抱きしめられたまま、身体を反転させて、ソファーに押し倒される。切ない緋色が目の前にあって、鼻先が触れあった。


「(好き)」


 そのたった一言で、身体が燃える。唇が触れるより早く、クラピカの舌が私に侵入した。


 侵入者は私の全てを奪うように暴れまわり、私の全てを満たすように愛撫する。


「レイン」

「レイン」


 息継ぎの度に名前を呼ばれ、囁かれる。唇を合わせれば、アルコールの匂いと熱に浮かされた。


 そのあまりの熱さに、激しさに、痺れるような電流が生まれる。背骨を直接擽られているような、駆け上がる快感に、身体が戦慄く。


『ふ‥‥ぁんっ‥ぁ‥んん‥ぅん‥』


 柔らかな舌が、歯列をなぞり、口蓋を這う。舌根を擽られ、肩が震えた。『んっ‥んんんっ‥』


 溢れてしまう涎を、飲み込むこともできない。唇の端を零れたもので汚しながら、クラピカの熱に翻弄された。


 誘い出された舌先を、甘噛みされ、唇で扱かれる。吸われながら絡められて、身体の奥が疼いていた。


 耐えきれずに腰を揺らすと、クラピカが唇を解放する。銀糸で繋がる舌先が、羞恥心を擽った。


「(キスで感じた?)」


 見透かされて、微笑まれて、恥ずかしくて死んでしまいそう。その前に、窒息死かも。心臓発作かも知れない。


 私の身体はすっかり火照っていて、暑いくらいだった。今はどこに触れられても、反応してしまうに違いない。抱きしめているだけの掌にも、焦れったさを感じていた。


「(好きだよ、レイン。オレのものだ。誰にも渡さない)」


 顎を伝う唾液を舐めとり、クラピカの舌が私の唇に到達する。再びキスをされて、絡め取られた。


『んっ‥んぅ‥』


 熱い。

 熱いよ。

 クラピカに触れられてる部分が、熱くてたまらないの。


 クラピカの左手が身体を降りて、私の大腿を這う。吃驚して、クラピカの舌を歯で掠めてしまった。


『あ、ごめんなさい‥』

「(いいよ)」


 仕切り直し。もう一度深く塞がれる。クラピカの舌が喉まで到達しそうだ。暴れられて、暴かれて、溺れてしまう。


 私の右脚が持ち上げられて、クラピカの肩に担ぎ上げられた。柔らかな内腿に、クラピカの腰があたる。あ、駄目、これ、ぞくぞくしちゃう。


 舌が萎縮するのが自分でも分かった。小さくなって、震えている。身体すら疎んで、怯えている。狩られ奪われた獲物みたい。お腹の疼きは大きくなるのに。

 怖いよ。

 怖い。

 気持ちよすぎて、怖いの。

 溢れそうなの。


 だから、おねがい、もう赦して。



 どんなに願っても、クラピカは強引に私を誘い出す。舌先でつついて、優しく絡め取る。かと思えば、激しく吸われ、愛撫される。


『んんっ‥‥ふ‥ぁっんん―――っ‥』


 生まれる熱に内腿を擦り寄せようとしても、クラピカの腰に阻まれてしまう。結果、触れ合った部分な更なる熱が宿ってしまい、クラピカの腕の中で身体を痙攣させた。


 下唇に噛み付かれ、金糸の獣が漸く離れる。


 呼吸すら儘ならない私は、熱に震える身体をもて余しながら、ぐったりとソファーに沈んでいた。


「感じてくれたのだな。嬉しいよ、レイン」


 あ、公用語。なんて考えるだけの余力もない。囁かれた言葉は吐息になって、私の鼓膜を振るわせるだけだった。


 空気の振動にさえ肩を震わせる私をみて、クラピカは楽しそうに笑う。


「私はまだ足りないのだよ、レイン。頼むから、こんなところで根を上げないでくれ」


 私を見下ろす紅い瞳が、薄暗く微笑む。その獣の美しさに、私は息を飲むしかなかった。




end

 

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