H×H

□ルドルフにキスと花束を
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 色鮮やかに飾り付けられたパーティー会場。


 視覚と嗅覚で食欲を誘う食事。


 この時間を楽しむために集まったメンバー。




 そして、




『メリークリスマースっ!』



「「「おー、レインっ!メリークリスマースっ!!」」」





 今日の為に用意したのだろう、彼女の衣装。




 テーブルの合間を縫って、擦れ違う人間全員に笑顔で挨拶をする彼女は、さながらサンタクロースのようだ。



 いや、サンタクロースなのだろう。



 赤い服に赤い帽子、黒いブーツ。白い大きな袋。レインはその袋から取り出した箱を、会場の皆に配って回っていた。


『はい、キルア』


「サンキュー。お、やった、ジョイステーション・ポータブルじゃん」



『はい、レオリオ』


「おお、サンキュー、レイン。こんなタイピン欲しかったんだよな」



『はい、これはメンチに』


「あら、ありがとー。レクルーゼの鍋4点セットなんて、嬉しいじゃない」




 綺麗にラッピングされたそれらの箱は、パーティが始まる前に、参加者全員で持ち寄ったものだ。つまり、誰がどの箱を準備したのかは分からないし、その中身も準備した本人しか知らない。にも関わらず、レインはラッピングされたままの箱から、参加者に適したプレゼントを的確に選んで渡していた。



『はい、クラピカ』


「ああ、有り難う」




 広い会場で、たった一人でプレゼントを配り歩いているというのに、レインの笑顔は疲れを感じさせない。聞いてみると、『サンタさんですから』とはぐらかされた。




「よー、クラピカ、飲んでるか」



 アルコールの匂いを纏ったレオリオが、私の背後から声を掛けてくる。右手にはグラス。左手には先程レインから貰った小箱。



「見ろよ、チャネールのタイピンとカフスのセット。さすがレイン、良いセンスだぜ」



「プレゼントの中身は参加者が一人一つずつ持ち寄ったもので、レインはそれを無作為に配っているだけだ。ただの偶然にセンスもなにもない」



「その偶然で人を喜ばすのが、あいつのセンスなんだよ」



 得意気な表情で告げるレオリオの顔を、思いきり殴りたい気分になる。いや、落ち着け。レインが作ったこの雰囲気を、私が壊すわけにもいかない。



「で、お前はなにを貰ったんだ」



 グラスを煽りながらレオリオが聞いた。目線は私の小箱。白いラッピングシートと深緑のリボンが掛けられている。



「分からない。まだ確認していない」


「なんだよ、だったら今から開けてみせろよ」


「拒否する。ここで箱を開ける必要を感じない」



 私は視線を合わせずに答えた。いつも鬱陶しいレオリオとの会話だが、今日は一段と煩わしく感じた。



 私は左手に持っていたグラスを傾けた。中身は甘いジュース。いつボスに呼び出されるか分からない私は、能動的なアルコールの摂取は極力控えていた。




「なんだよ、機嫌わりーな」


「機嫌が悪い?」



 甘ったるい液体が喉を通るのを感じながら、私は聞き返す。その液体は私の喉を潤すどころか、逆に絡んで、私を苛立たせた。



「まー、折角のクリスマスにレインと二人きりじゃねーのは同情するが、あいつもサンタ役に乗り気だったしな。普段独占してる分、今日くらいは譲ってやれ」



 そう言って私の肩を軽く叩くレオリオ。そうか、私は機嫌が悪いのか。



「分かっているさ。サンタクロース役はあいつが適任者だ」


 溜息混じりに言って、グラスの中身を飲み干す。相変わらずの甘さは喉に絡み付いて、私の不快感を煽った。


「だから私は箱の中身を確認しなくとも、このプレゼントは私にとって最高のものだという確信をしているのだよ」



 冷たい気持ちと私の体温とは対照的に、レインから貰ったこの箱は、何故か温もりを感じた。まるで、レインの体温が移ったみたいで、この無機質な直方体にも愛しさを感じる。



「はー、言ってくれるねえ。確かに、あのミニスカサンタコスはレインじゃねーと着こなせねーわ」



「な‥‥っ!私はそんなつもりで言ったわけでは‥‥!」



 この男、またレインをそんな目で見ているのかっ!あいつは私のものだというのを、あれだけ時間をかけて教え込んだと言うのにっ!



「ま、‥‥まーまー、落ち着けって。今日のレインは皆のサンタさんなんだからよ。そんな怖い顔すんなって。

 お、ほらほら、噂をすれば、だ」



 レオリオが示す方向を見ると、赤い服を着たレインが此方に近付いて来る。もう白い袋は持っていなかった。



『メリークリスマス、クラピカ、レオリオ』


「おー、メリークリスマス、レイン。サンタ業務は終了か?」


『うん。さすがに、この人数はちょっと多かったかな。でも、楽しかったよ』



 にこにこと答えるレインは、少しだけ顔が赤い。心なしか、足取りも覚束なかった。



「レイン、‥‥まさか、酔っているのか?」


『あはは、少しだけね。プレゼント配る度に、皆がグラスくれるもんだからさ』



 赤い顔で笑うレイン。何杯飲んだのかを問うと、『ん、えーっと、‥‥8、9、10‥‥、あはは、忘れちゃった』



 答えの途中で、レインの膝が崩れ落ちる。咄嗟に彼女の腰を支えるが、自分自身の力では態勢を整えることは不可能そうだ。



「レオリオ、あとは任せた」


「おー、なんとか誤魔化しとくわ」




 今にも眠りそうなレインを担いで、私はパーティ会場を後にした。






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