go along the origin

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 始まりは、ニューイヤーズカードに紛れていた。






 昨夜、長時間電脳ページを捲っていた私は、新年が明けたことにすら気が付かなかった。



 全開で能力を使っちゃうと時間感覚なくなっちゃうからね。あ、全壊じゃないよ。ま、使った後は壊れたみたいに熟睡しちゃうから、意味はそれほど変わらないけれど。負担が大きいんだ、私自身に。




 でも、探し物は見付からない。






 はあ、新年か。




 実のところ、私、年間のイベントにはあまり興味がなかったりする。



 今日なんて、ただの昨日の延長。今年も去年の延長。そう考える私にとって、一月一日なんて、十二月三十一日の延長でしかない。



 つまり、特別な日ではないということ。



 情緒がないよね、分かってる。でも、そんな私でも、ニューイヤーズカードを贈ってくれる人はいるようで。



 新年の太陽は、既に空高くまで昇っていて、有り難みなんてまるでない。



 祝日独特の午前の雰囲気。皆が一斉に休むからだよね。静かで、たまに、車かバイクのエンジン音。



 郵便受けに入っていたポストカードやメールを、私はベッドの上に散乱させた。




『あー、スピン、またマニアックな国にいるなぁ。アマチュアつっても、やることはプロと変わらないじゃん。電波通じるのかな。あ、ウィング、弟子とったんだ。天空闘技場かぁ、懐かしい。


 えっと、それから、あれ?』



 カードの宛名を確認していくと、一通だけ、雰囲気の違う封筒が目に入る。



『なんだ、これ?』



 宛名がない。送り主も不明。もしかしたら、中に書いてあるかも知れないけれど、宛先も書いていないなんて。


 切手がない。着払いではないようだし。送り主本人が、直接、郵便受けに入れたとしか考えられない。



 そして、この封筒。



 念で封じてある。



『怪しい‥‥よねぇ』



 念を使える知人は少なくないけれど、こんな手紙を寄越す人物に心当たりはない。そもそも、知り合いなら送り主を記名しても差し障りない筈だ。こんな趣向を凝らして、怪しまれて開封されなかったら本末転倒だし。




 エックス線でも照射してみようか。中身が分かるかも。


 いや、罠だとしても念能力だろうし、無駄なことはしない方が良いよね。



 それに、例えば、あの人からの手紙かも知れない。



 見たところ、他のカードにあの人の名前はない。あの人が出ていってから住所は変わっていないから、連絡がないのは意図的だと分かっている。



 だから、もしかしたら、



 仄かな期待。



 落ち着け、落ち着け、



 自分を戒めて。




 指先にオーラを集中させて、私は封筒をなぞった。






 呆気なく開封された封筒からは、二枚の紙切れ。一枚は、葉書サイズの事務的な印刷用紙。もう一枚は、やや厚めの‥‥。



『ハンター試験、受験通知?』



 なんで、こんなものが入ってるんだ?


 ハンター試験は知っている。でも、それは知識としてで、経験からではない。私は、ハンター試験を受けたことはない。


 勿論、応募したことも。



 配達ミスだろうか。だとしたら、大変なことだ。宛先がないのだから、私が投函し直すことも出来ない。



 あれ、いや、待て待て。



 この封筒の送り主は、私が念を使えることを知っている。でなければ、念で封じるなんてしない。念能力の開発は、裏ハンター試験と呼ばれるくらい、アマチュアにはタブーとされているのに。


 念で封じた封筒に、ハンター試験受験通知。すごい矛盾だよねえ、これって。




 もう一枚のこの紙切れは、この矛盾を説明してくれるのかな。


 封筒の中から、もう一枚を取り出す。



『あれ、これって‥』



 真っ白じゃないか。



 念呪が施されている様子もない。



 つまり、ただの紙切れ。これじゃあ、なにも伝わらないよ。伝える気がないのかな。



 メッセージを求めて、事務用紙をひっくり返してみる。



 しかし、やはり真っ白。



『ああ、もしかして‥‥』



 呟いて、掌にオーラを集中させる。電磁波に変化させた上で、少しだけ波長を調節させて。



『ああ、やっぱり』




 紫外線を浴びた紙面に浮かび上がった文字。発光していると言った方が正しい。無機発光顔料。テーマパークの再入場審査にも使われる特殊なインクで印刷してあるそれは、公用語だった。




『うらが‥‥ん、ウラガン?お父さん?』



 ウラガンは、二年前に死んだ‥筈の父の名前。


 筈っていうのはね、その頃の記憶が曖昧だから。お父さんが死んだっていうのは、認識しているの。でも、それは、思い出からの認識じゃなくて。えっと、なんというか、1たす1は2、みたいな。あ、分かりにくいか。



 でも、裏付けされた情報じゃない。誰かが証明したわけじゃない。



 だからこそ、確認したいのに。



 どこにもない、父の‥‥ウラガンという名前の男の情報。



 それなのに‥



『生きてた、の?いや、でも‥‥』



 落ち着け、落ち着け。


 まだ結論を出すのは早いそ、自分。



 心臓が高鳴っている。脈の速さを自覚する。




 深呼吸。



 脳に酸素を。



 思考をクリアに。





 そう、例えば、今年の一月一日に私に届くよう、誰かに依頼したのかも知れないし。


 そうなると、誰に依頼したのか、それが問題だよね。


 それに、なんで、ハンター試験受験通知なのかも。



『お父さん、私の名前で勝手に応募したのかな』




 まあ、受験の意思がなければ、試験会場に行かなければ良いだけの話なんだけどね。



 でも、無下にするには引っ掛かる。



 あの人も、ハンターになりたいと言って、ここを出て行ったから。




 この封筒は、明らかに、父の情報を得る為のヒント。



 昨夜、というより、三年半の間、私が能力の全てを使っても探し出せなかった、父の情報。



 しかも、その先には、あの人と繋がっていそう。




 ハンターか‥‥。




 このハンター試験で、探しものと探し人、両方が見付かるとは思わないけれど。うん、そうだね。



 たまには、電脳世界から飛び出して、現実世界を探してみるか。






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