Baby,sing a song.
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一瞬、大きな妖気と風圧に身体を倒されました。
地面に手を突いて身体を支えると、反射で開かれた視界から、あの巨大な妖怪は消えていました。
代わりに広がる光景。
薙ぎ倒された木々と、大きな(あの妖怪よりも、更に大きな)何かが通った跡。
そして、中空に直立した青年。
青年は軽く口笛を鳴らして、私に歯を見せて笑いました。
「あ〜ぶなかっただなぁ、おめぇ」
不思議なイントネーションで話すその青年は、笑顔のまま私を見下ろす位置まで移動しました。
地面に降りて、座ったままの私に目線を合わせます。
「紗々だろ、おめ。
蔵馬んトコの」
大きな、猫のような瞳で、私の顔を覗き込みます。
『蔵馬さまの所のではありませんけど、私が紗々です』
蔵馬さまのものと言われている気がして、何となく居心地が悪い。
「そうか。いやー、良かったべ。
間違ってたら赤っ恥だもんな」
『失礼ですが、貴方は?』
「オラは陣っちゅーもんだ。
まぁ、蔵馬の仲間ってとこだべ」
『蔵馬さまの‥‥?』
「んだ。鈴駒や凍矢は知ってんだろ?
あいつらも同じだべ」
それを聞いて、やっと肩の緊張が解けました。
鈴駒さんや凍矢さんの知名度がどれ程のものかは分かりませんが、魔界の誰もが知っている名前ではないでしょう。
だから、多分、ええ、大丈夫。
私は八重歯を見せて笑う陣さんを、信用することにしました。