Baby,sing a song.

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 蔵馬さまに案内して頂き、立派な日本庭園のような、黄泉さまのお部屋に通されました。


蔵馬さまは、ご自身のお部屋を一歩出たところで、再び、笑顔を封印されてしまいました。


まるで、笑うことが許されないかのようです。




 黄泉さまの匂いが強くなったところで、私は緊張で、どうしても身体が竦んでしまいます。


そんな私を余所に、蔵馬さまは勝手知ったるなんとやら。


ある部屋の前で、立ち止まり、何も言わずに、私が追い付くのを待っていらっしゃいます。



 お部屋を覗かなくても、分かります。ここに黄泉さまがいらっしゃること。



 私の待ち望んだ妖気が、襖を挟んだ私のところまで、惜しむことなく届いていますから。



 私が漸く追い付くと、蔵馬さまは無言で、襖に手を掛けました。



 静かに、私の目の前に、畳の部屋が広がります。



 広い、広いお部屋。



 その奥に、



 私の最も愛しい


 黒髪の穏やかな笑顔を見つけました。



『黄泉さま‥‥』


 圧倒的な存在感。

 この広い部屋も、黄泉さまの重厚な空気で満たされています。


 早くその空気に包まれたくて、逸る気持ちを精一杯抑えつけます。



「久しいな、紗々」



 夕暮れのような、黄泉さまのお声が、とても心地好くて、私は、返事を返すより先に、言葉が涙になって溢れてしまいました。







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