Baby,sing a song.

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 …そして、これは?


 私は、今この状況の説明を、心の中で求めていました。


 今、私は、温子さんたちに見繕って頂いたベッドに、蔵馬さまと寝転んでいます。


あの後、相変わらずリビングで放心していた私に、蔵馬さまは仰いました。


「シャワー、先に使ってすみません。


 バスタブにお湯を溜めておきましたから、使ってくださいね」


『あ、あ、ありがとうございます』


 前髪から滴る水滴を眼で追いながら、お礼を言いした。


その時の私は、とても、蔵馬さまの瞳を見れる心境ではありませんでしたから。

 私は、タオルと着替えを持って、バスルームに向います。


 バスルームには、甘い花の香りに包まれていました。


その香りは、先程の蔵馬さまの香りと同じで、私は思わず、顔を赤らめました。


バスタブには、確かにお湯が張られていて、その上…

『あ、…薔薇のお花』


バスタブには、紅い薔薇の花が、沢山浮かべられていました。


お湯は、使った形跡がありません。


 私は、薔薇の香りを胸一杯に吸い込んで、バスタブに沈みました。


『気持ち良い…』


 今日は、沢山、色んな事がありましたから、流石に少し、疲れてしまったようです。


『ん…』


 脚に、微かな痺れが走って、脚よりも少し長めの尾鰭に変わりました。


『久しぶり』


 私は、自分の尾鰭に、挨拶します。


パシャパシャと、尾鰭を動かして、お湯を跳ねあげてみました。


『‥‥‥』


 でも、何か忘れているような。


『‥‥‥』何でしょう。




『‥‥あぁっ!』


 しまったっ!うっかりしていました!


 尾鰭になってしまったら、完全に乾くまでは、脚に戻れないのです。


 バスタブから上がることは可能ですが、問題はそこから。


バスルームから出ることが出来ないのです。


『あ――‥‥』


 私はうなだれました。


 意を決して、蔵馬さまに助けを求めてみましょうか。


いえ、でも、先程のこともありますし…


『う――‥‥』


 私の力ない声が、バスルームに反響します。


「紗々?


 大丈夫ですか?」バスルームの扉の向こうから、助けを求めようとしていた方の声。


『く、蔵馬さ…ん?』


「どうしました?


 大きな声を出したり、唸ったり。何かありました?」


『い…いえ、あの…』


 い、言えません。


尾鰭になってしまって、バスルームから上がれない、なんて。


 蔵馬さまは、何も言わない私に、痺れを切らしたのか…


「紗々?…すみません。開けますよ」


 ご容赦なく、バスルームの扉を開けられました。








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